ハエというと腐った食べ物やフンにたかっているのをよく目にするが、日常ではそれほど多くの種類のハエに出くわすことはない。しかし、実はハエは数千種も存在し、動物や昆虫に寄生するものから、吸血するものまで多様な生態をとるものがいる。本書ではそれら多様なハエの生態について解説されている。
なかでも特に関心を引くのはオドリバエのオスのプレイボーイぶりである。オドリバエのオスは、求愛のためメスにエサをプレゼントし交尾するという、昆虫とは思えぬ行動をとるのだが、交尾のためにメスにエサをプレゼントしても、交尾が終わるとプレゼントしたはずのエサをさっさと持ち去ってしまったり、エサによく似た形をした植物の種を「偽のエサ」として使ったりと、なかなかしたたかなのである。その生物学的な理由はプレゼントするための昆虫を捕獲するコストを減らしてより多くのメスと交尾するためなのだそうだが、オスの行動とその生物学的理由が、なんとなく人間社会での恋愛の駆け引きとも似ている気がして苦笑してしまった。
本書は解説論文を集めたような形式になっており、著述は科学的かつ客観的で、文体はやや固い。しかし、基礎知識は不要なので、昆虫学、応用動物昆虫学や農学の専門家はもちろんのこと、一般の読者でも十分に楽しめる。(別役 匝)