『The House on Mango Street』はそれまでほとんど聞こえてこなかったラティーナ(メキシコ系アメリカ人女性)たちの内部の声を表舞台に出した、という画期的な役割を担ったのだけれど、ここで紹介する短編集はその続編といっていい。『The House on Mango Street』の主人公エスペランサが少し大きくなったころの話から始まり、しだいに舞台を国境沿いの地域、シスネロス自身がいま住んでいるテキサス州サンアントニオに移し、登場人物も少女から女へと成長していく。
オリジナルタイトルとなった「女が叫ぶクリーク」には、メキシコとの国境の町で繰り広げられる女たちの暮らしが、細部に執拗にこだわるこの作家の表現法でリアルに描きだされ、ほかにも、ナイトクラブからの実況中継さながらの短編、メキシコ革命の英雄サパタの愛人を語りの主人公に据えて、時間、空間の軸を軽やかに移動しながら進める「サパタの目」など、作品はバラエティーに富んでいる。
ラテン系社会では今もマチスモ(男性優位主義)が根強く、悲惨なことも多い暮らしのなかで、どの作品からも、愛することを手放さずに、前向きに必死に生きる女たちの、ホットでパワフルな日常がビンビン伝わってきて勇気づけられる。
とにかく、この作家の転がるような調子の語りの文体には、思わず乗せられてしまうからおもしろい。シスネロスには詩集も2冊あって、これもなかなかいいのでおすすめ。『Loose Woman』はヘビーな愛の詩が多くて泣かせる。(森 望)