欧州安全保障に絞った概説書
★★★★☆
UNの和訳である国際連合だと、まるで国々が一つのまとまりのある連合を形成しているかの印象を与える。
しかし、現実には連合した国々に過ぎない。
また、マスコミや評論で言われるNATO軍やNATO基地は存在しない。
日本には国際組織に対する思い入れがあるのではないか。
筆者のこの視点は鋭く、しかしだからこそテーマを絞らずには纏め上げることが出来なかったのだろう。
本書のテーマはNATOが欧州の安全保障に如何に関わってきたか、そして如何に関わろうとしているかに絞られている。
冷戦終結後に多くの紙幅を費やしている本書で、NATOの改革にとって重要なのは旧ワルシャワ条約機構構成国、EUとの関係である。
東方拡大に伴うロシアとの調整、バルカン紛争へのEU諸国の関わり、EU独自の軍事力保持などは、
NATO・EUそれぞれが東方拡大を目指している今日でも示唆に富んでいる。
とりわけ、ソ連・ロシアとの関係は露国内保守勢力への配慮が欠かせず、表舞台では常に対立を維持していた、
などは同時代人としては興味深かった。
また本書では当事者へのインタビューの内容が豊富に引用されており、必ずしも筆者と同意見ではない人物の意見など
視点が偏ることなく読み進めることが出来た。それ故か、肩に力が入らず一気に読み進めることが出来た。
ルポ物が増えた岩波新書新赤版に於いて、こうした批判精神を持った筆者の存在は貴重だと感じた。