伊藤潤二さんの作品史上最もスケールの大きい話だったのではないでしょうか。
しかし息つく暇のない一直線の大法螺にジェットコースター的なカタルシスを
感じました。なんといってもぶっ飛んだセンスで暴走します。

ただひたすらに大ピンチ（笑）。ひたすらに薄幸なヒロイン。ひたすらに騒ぎ
続ける民衆。ただひたすらに、作中の人々と同じく読者も振り回されること
請け合いです。面白かった。

一応『ホラー漫画を描いてる人』と認識しているのですが、
どうしても『すごくシュールなギャグ漫画』にしか見えないんです。
すごい基本的な突っ込みをしたくなるんですよね。
そんな高速で飛びながらしゃべれるの？息出来る？とか。
「怖さ」に関しての焦点が、集団心理に対してなのか未知の惑星に
対してなのか、それ以外なのか…。全体に対しての「怖さ」を表現
したかったのならぼけてしまっている気がするし…。
ストーリーの予想外の進み方は、なんかもう気持ちいいくらいなので
読んでて面白いのは確かです。

最近は、長編が多く、舞台の規模も「うずまき」、｢ギョ」と作品を重ねるにつれ大きくなってます。今回は宇宙、惑星規模です。
内容としては凡百のSFホラーよりは、独創的でユニークではあります。ただ初期の作品でファンになった人には物足りないかも。（おまけの短編はすばらしいですが）「長い夢」、「首吊り気球」のような奇抜、緊張感は希薄です。
あまり初期の作品と比較するよりは、純粋にSFホラーとして読んだほうが、楽しめますね。

伊藤潤二はこの作品で何を描きたかったのかが判らない。絵柄故にホラーの雰囲気を保っているものの、SFとしか思われない展開に違和感を感じました。･････同時収録の短編「億万ぼっち」は結構良かっただけに惜しい。

もしこの話を原作シナリオとして渡されたら漫画家は暴れ出すか、頭を抱えて泣き出すか、奇声を上げて原作者に襲いかかるだろう。
伊藤潤二だって、自分で考えたのでなければ、これは描けなかったのではないか。ましてや贈刊とはいえメジャー週刊誌の名前を冠した媒体に発表など、どれほどの勇気があろうと出来なかったのではないか。
それほどに本作は、設定も、物語も、それを具現化してみせた作画も常識外、規格外の、もう何と言ったらいいのか・・・とにかく「天才か、それに紙一重の人」の仕事・・・多分、大傑作である。
それだけに、これは読む人を選ぶ。
それは正誤ではなく、好き嫌い、要不要、好奇心の強弱の問題である。
読んでも偉くないが、恥じることも無い。
この作品を読むか否かは、まずカバーイラストをじっくり吟味して判断されたい。
「珍妙な高層建築物の林立する近未来都市を背景に、木製の十字架に縛り付けられているヒロイン、そしてその彼女にいやらしく絡み付こうとしているのはワームホールから出現した表題の惑星の『舌』である」
・・・どうだろう。この説明で間違っていないと思うが、これに少しでもそそられたなら、そしてあなたがこの目眩必至の世界に負けない自信をお持ちのマンガ読みなら読んでおかれた方が良い。
後頭部を殴られるようなマンガ体験が待っている。