底生生物研究者必読の好著
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干出と浸水、温度や塩分濃度の急激な変化、狭いエリア内での大きな環境勾配、波浪や剥ぎ取りによる撹乱、陸上と水中の生物の相互関係---、そうした特徴から群集生態のモデルとしてよく取り上げられる潮間帯について、英国の著名な研究者であるD. RaffaelliとS. Hawkinsが詳細に解説した『Intertidal Ecology』の邦訳。潮間帯に限らずベントス(底生生物)全般に通じる話題が数多く取り上げられており、この分野の研究者にとっては必読の好著と言える。
原書部分の内容も非常に濃いのだが、特筆すべきは訳者(国内で指導的な立場にあるベントス研究者の一人)による補足の充実ぶりだろう。文中にある、用語・トピックを詳しく解説した囲み記事(Box)や、各章末に置かれた日本の関連文献・論文のリストなど、時には本文以上に参考になる内容も少なくない。また、重要な用語については英語での表現も併記されており、英語の論文を読んだり書いたりすることの多い人には用語集としても役立つ。
上巻は、主として環境勾配および個々の種の生態に関する内容となっている。沿岸環境全般の話題や文献リストは下巻にまとめられているので、なるべく上下巻そろえて通読することをお勧めする。