一読の価値は絶対にある
★★★★★
比喩に関して選考委員が誉めていたが、その通りだと思う。しかし、あまりにもいっぱいありすぎてお腹いっぱい。もうちょっちセーブしてもいいのでは?
それにしてもこの暗い話しは面白い。
さまざまな見方はできるだろうが、結局、電波系の浮浪者と主人公は同じ道を突っ走っているのだなと思った。14歳の主人公の末の姿が浮浪者なのであると。
この作者は、この路線を突き詰めていけば、最後はどこにいってしまうのだろう。
楽しみな作家がまた出現した。
嫌悪感はあるが
★★★★☆
社会的弱者、身体的弱者、家庭内弱者への暴力が、
作品全体のベースに流れているため、嫌悪感をもつ読者も多いかもしれない。
ただし、表現を別にすれば、以下のような構図が見える。
あらすじとして、身体的弱者である少女に対する罪を背負った男が、
妄想として取りつかれている「増大派」対「減少派」の構図とは、
作品の時代背景と合わせて「社会主義」という大きな物語「増大派」のことである。
この点で男はポストモダン以前の亡霊である。
もう一人の主人公である少年は、父親からの暴力という現実的なものであり、
彼は現実的に生き残るために、大きな物語を仮想的とせず、リアルな狂気をはらんでいる。
その二人が出会い、男の罪の償いをさせるかに見せるのだが、最終的にはカタストロフィを迎える。
そこでは少年のリアルが、男の妄想を暴力的に駆逐する。
という具合に暴力のレイヤー構造がちゃんと意識されているのだ。
よくぞ書いてくれました!
★★★★★
『増大派』という言葉を含んだタイトルと、日本ファンタジーノベル大賞選考委員である鈴木光司氏の「読者のすべてを敵に回しかねない」という言葉に惹かれて購入しました。期待通りの傑作です。
ある種の放送禁止用語に関してヒステリックになる出版社もありますが、新潮社はそういう野暮なところでもないようですね。新潮社のことも好きになりました。
欲を言えば、中盤がたらたらしていて、小川だの多華子だのは要らんと個人的に思うのですが、最後が痛快(そんなことを言ったら不謹慎だと思いますが、偽善をぶち壊していることへの賛辞としては、他の言葉が思いつきません)なので、全て良し。
次に続くレビューを楽しみにしています。そのうち絶対「読んでいてとても不愉快でした」とか書いてくる読者がいると思うのですが、どのようなところがどのように不愉快なのかに、とても興味があります。