秋吉敏子が30年間にわたって率いたジャズ・オーケストラの名曲・名演を集めたベスト版。このアルバム1枚を聴くだけでも、秋吉がジャズの歴史の中に確固たる位置を占める音楽家であることがはっきりと分かる。作曲面における彼女の究極のオリジナリティーは、日本の伝統的な音楽をビッグ・バンド・ジャズに持ち込んだことだ。能楽の調べがジャズ・オーケストラのサウンドへと自然に移行していく「孤軍」は、1970年代の発表からどれだけ時間がたっても色あせることのない新鮮さを持っている。
福島県の民謡「かんちょろりん節」をモチーフにした「チルドレン・イン・ザ・テンプル・グラウンド」も名作だ。編曲テクニックの面では、木管楽器の巧みな重ね方がトレードマーク。しなやかで、しかし強さを持った木管のアンサンブルはこのアルバムでも随所に聴かれる。また、自らの人生の歩みを描いた「ロング・イエロー・ロード」をはじめ、ストーリー性のある曲を書いたことも彼女の特徴だ。(松本泰樹)