人と人との間を取りながら生きていく「人間」
★★★★★
人と人の間を適切に取るには、それぞれの違いを理解したり、それぞれの良さを引き出すことが求められます。和洋折衷という言葉がありますが、日本風のものと西洋風のものの長所を活かす、このバランス感覚こそが「和」であり「間」だと感じました。
堪えがたいほどの説得力のなさ
★☆☆☆☆
記述力はあるが、説明力が足りないと感じた。
筆者は、さまざまな日本の「間」の理由付けをしようと試みるが、
最も問題なのは、これまでの膨大な日本論・風土論・文化論などに触れることなしに、独自の論を述べているにすぎないところである。「和の思想」というとうてい包括的に語ることが難しいようなテーマを自分一人で語りうると思っているのだろうか。これまでの膨大な研究文脈を基に、または批判的に検討することなしにこのようなテーマが語れるとは思えない。
また、それにしては、結論への飛躍がありすぎることにとても違和感を覚えた。たとえば、万葉仮名から平仮名・片仮名が生まれたのは、「びっしりと漢字の並ぶ歌や文章を読むのも、ごらんのとおり暑苦しく耐えがたい(p.170)」からだという。動機を「島国の暑い夏」だけに限定することが本当に出来るのか。もしくは本当にそれが動機であるのか。
この本では、日本文化の「間」の思想が、「夏をむねとすべし」という兼好法師の思想に基づいている、もっといえば、夏の蒸し暑いこの日本の気候から来ているという。絵画で余白が多いのもその気候性から来ていると。
こんなことは想像するだけなら誰にでも出来る。それを検証して、丁寧に帰納的に結論づけてこそ、本を出す意味があるというものだろう。そうでないのなら、ぼんやりと語るだけなら、このような新書という形で出すべきではない。
大胆な論をいう割には説得力に欠ける。このようなことは検証しづらいからこそ、慎重に慎重を論を展開していかなければ読み物として、多くの人に提案する論として成立しないと思うのだが。
ファンシーに想像するだけなら誰でも出来る。
少し丁寧さに欠ける、誠実ではない論である。
もう少し誠実な本を期待する。
「真の和の思想とは」を考えさせる好著
★★★★☆
長谷川氏は「和とは本来、さまざまな異質のものをなごやかに調和させる力である」という。
なぜ、和の力が日本に生まれたか? 長谷川櫂氏の結論を要約すると三つある。
1 この国が緑の野山と青い海原のほか何もない、いわば空白の島国だったこと。
2 さまざまな人と文化が渡来したこと。
3 島国の夏は異様に蒸し暑く、人びとはこれを嫌い、涼しさを好む感覚を身につけたこと。
この本の構成自体がまさに氏の理解した日本文化本来の「和」の特質を体現した好著である。
しかし、「蒸し暑き夏」を強調しすぎたきらいもある。
なぜなら、東北の人間としては、長い寒さの日々の中、修験の神仏の力をたよりに生き抜いて、短い夏に山の神や鬼や獅子となって舞う「早池峰神楽」や精進潔斎して臨む厳寒の正月の「大日堂舞楽」などに東北文化のエネルギーの高みを見出す。そして南島も並立させた「いくつもの日本」を見据え、四季の移ろいを見据えてこそ真の「和の思想」と思うからである。
日本の「和の思想」の大切さを確認している
★★★★★
日本が明治になり、古来伝統の「陰翳の文化」を差し置いて、西洋化(アメリカ化)してしまい、郷愁のように「和」というものをふり返るにいすぎにいなら、はたして「和とはみじめなもの」なのか、と問いかけることから本書は語り始める。
蔑まれた「倭」から「和」へ、日本の国家意識が移行した。「和らぐ国」日本である。和議・和解、異質のものが相容れる調和の取れた和国である。異質の共存、取り合わせを楽しむ文化である。「古池や/蛙飛こむ水のおと」は次元の異なるものが互いに調和、共存したものに心地よさを感じている。更には、「間(ま)の文化」の代表として、連句文芸を挙げている。『徒然草』は「余白の大事さ」を説いているとみている。『万葉集』は漢字を受容して和歌を書くことを始めた。
今後、「和の可能性」を模索していかなければならないし、日本は元来「異質のものを共存させること」を本意とする国である。一神教同士相対立する世界に思いを馳せると、多神を認める日本の「和の思想」の果たす役割は大きい。
風土と世代を手がかりに論じる、日本文化のダイナミズム―
★★★★★
本書は、詩人として活躍する著者が
日本文化の根本にある『和』の思想について論じる著作です。
筆者は日本文化の「異質なものの共存」や「間」という特性に注目。
その具体例として、
憶良、芭蕉、兼好等の詩歌や、旅館『蓬莱』の調度品
さらに隈研吾さんの建築などを示し、
日本文化が異質なものをどのように受容し、変化させ
共存するにいっているのか―その動態を描きます。
そしてそのうえで、これら支える要因として、
風土の高温多湿さと、「何もなさ」を指摘します。。
芭蕉の句についての解説や
師宣の絵画に見られる江戸時代の色彩感覚
など、興味深い記述は各所にありますが
谷崎の『陰影礼賛』に表出した東洋文化への侮蔑について、
世代的な要因を指摘する箇所は、まさしく蒙きを啓らむ。
ありがちな風土論―と甘く見ていたのですが
筆者の議論の奥深さや射程の広さにとても驚きました。
多くの実例をもとに『和』のダイナミズムを論じ、
インスピレーションに満ちた本書。
俳句や建築等に興味のある方だけではなく、
一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です☆