「アメリカの世紀」後の世界経済の諸相を多面的に描き出す!
★★★★★
20世紀(後半)を「アメリカの世紀」とみなすならば、21世紀の世界はいかなる様相を呈することになるか、これは多くの人にとっての関心事ではないか。膨大な数の取材に裏付けられた良質なジャーナリストの作品はそうした問題関心に実に多面的で鮮やかなシナリオを提示してくれる。扱われる領域はアメリカ経済を遥かにこえている。本書はまさに「知識の宝庫」といえる。
本書の核心は「アメリカ後の世界」と題する第三部だが、そこでは「多極化世界」、「中国の世紀」、「都市国家」など5つの<シナリオ=物語>が語られる。どのシナリオも興味深く読むことができるが、やはりアジアに在住する人間としては隣国「中国の世紀」は特別な意義をもつ内容に感じられる。中国の経済力、軍事力がすでに現時点で際立った存在であることは周知の事実だ。だが著者によれば、本当の意味で21世紀が「中国の世紀」たりうるためには、中国が世界に向けて「魅力的な物語」を創造しうるかに大きく依存している。他国を引き寄せるだけの「磁力」を発揮できるかということだ。この側面では疑問符が課されるが、日本にとって無縁な話ではありえない。日本人としてのアイデンティティとは何かもまたあらためて問われているからだ。
アメリカにとってかつての「覇者」からの陥落はむろん決して愉快な話ではないが、それはひとえに「心情的な問題」である。多元的社会、多文化社会においては「主流となるモデル」が存在しない点こそが重要であるという著者の理解は説得的だ。原著の主題「アメリカ後」に対応する副題は「次のグローバル世代のための物語」だが、含蓄に富む「物語」が克明に描き出されたまさに力作のなかの力作。著者の調査・構想・執筆能力に心から敬意を表するとともに、周到な邦訳書を提供された訳者の労をもねぎらいたい。2010年の読書を本書からスタートされてはいかがだろうか。多くの観点で啓発されるだろう。
アメリカ帝国の衰亡
★★★★☆
アメリカの建国の歴史から始まり、アメリカの精神を知ることができ、今後の日本の対応の指針となるのではないか。翻訳も素人にもわかり易くしてあり、読むのにあまり苦労はしなかった。アメリカに興味がある人はみんな読んで欲しい。
変化の激しい時代の中で、アメリカが国力を弱めつつあることだけは確かなようである。
★★★★☆
過去にさかのぼれば、どのような大国も衰退の道を歩む。
かつてのローマ帝国とアメリカを相似形で対比する書物は数多い。
あえていえば、本書もそのような書物のひとつである。
その物語の中で、ヘンリー・ルースが1941年にアメリカの繁栄を予言した社説「アメリカの世紀」を主題に、1991年のソビエト崩壊を機に衰退していくアメリカを世界のさまざまな地域をめぐりながら描いている。
本書の主要なテーマであるアメリカ後の世界は、世界経済が疲弊し文明が衰退した「暗黒のカオス」か、ネットの進展によるより自由な「明るいカオス」かのいずれかの時代になるだろうと予測し、その判断は読者にゆだねている。
「歴史は繰り返す」という。しかし、今の世界をめぐる状況は過去のいずれの時代ともまったく異なるものでもある。
ただし、変化の激しい時代の中で、アメリカが国力を弱めつつあることだけは確かなようである。