ドクター・スカーペッタと呼ばれる彼女は、事件にかかわる登場人物たちの中でも地位が高く、たたき上げの刑事たちなど足元にも及ばない知性派キャリアである。男たちのやっかみと闘争心は、ときに彼女の失脚を狙う陰謀と化す。誰を信じればいいのか。孤独の中で自らの頭脳だけが最後まで頼れる武器となる。
事件解決にかかわる人物の中でも検屍局長というキャリアのトップの座にいるケイの硬質の推理は、いかにもかっこいい。長年の経験と勘に頼る刑事マリーノの泥臭さとは好対照をなす。相容れない2人は反発しあいながらも、けっきょくは事件解決のために互いを認めていかざるを得ない。このあたりに人間臭さが漂い、物語を俄然おもしろいものにしている。
一方、童話作家としての地歩を築きながらも男性関係に奔放なケイの妹の存在も悩みの種。妹の一人娘ルーシーとの関係がケイのプライベートな生活を映す鏡の役割を果たしている。
硬質な推理劇と悩ましい人生の物語が同居した読みごたえある作品。(木村朗子)