松居慶子は非常にうまいピアニストである。それは派手なテクニックのことを言っているのではない。細かいところまで神経の行き届いたフレーズの作り方、音楽の流れを決してとぎらせることのない繊細なタッチについての話だ。たくさんの音符を弾く方ではないのにピアノの音がこれほど強く印象に残るのは、短いフレーズのひとつひとつに生命感があふれているからだろう。シンプルに徹し、クリアさを極めているが、決して潤いに欠けず、ひとつひとつの音が自由に呼吸しているように聴こえる。
通産18枚目となるこのアルバムでは、リリカルなピアノと打ち込みによるスペイシーなバックというサウンドの基本は全編を通して変わらない。しかし、軽やかな中にもブルージーな味がある「フェイシング・アップ」から、クラシカルな格調を感じさせる「テンプル・オブ・ライフ」まで、曲調の幅はかなり広い。ちょっとオリエンタルな出だしからフォーク・ジャズ風に展開するタイトル曲の構成も気が利いている。(松本泰樹)