80年前後の青春
★★★★★
80年前後、京都で学生時代を過ごした佐藤優さん。
71年生まれの私には、この学生時代が一般的なのか、
それとも佐藤優さんならではの特殊、少数派なのかはどうか
よくわかりません。
ただ、いずれにしろ、学生時代の圧倒的な読書と交流を
通じて、その後の佐藤優さんが形成されているということが
よく分かりました。
最初に読んだのが「獄中記」であったため、
よく独房で500日以上も、しかも取調べを受けながらの状態で
耐えられたな、自身を見失わなかったなと驚いていたのですが、
この読書体験、そしてその後のロシアでの体験が
あったからこそだということがよく分かりました。
本物だ、佐藤優。
一言で言えば
★★★★★
怪力。
ネット社会となり
多少の理論を持って、振り回して浸ってる馬鹿も多いし、
逆に自己を歪少化、小市民化させることで、
非敵化を望み、自己防衛を果たそうとする馬鹿も多いが、
どちらも間違いである。
右翼も左翼も馬鹿も怜悧も読むといいだろう。
この手の人は女性にはモテないし、10代と20代前半はまったく認められないタイプだ。
(これは断言できる。社会人になれば変わってく事が多いが。
安保闘争と言う時代背景と神学部生だったと言うこと、国家公務員と言う地位などの背景などを含め、稀有なケースだ。これを信用して真似すれば大卒まで童貞、就職先は1社もない、なんて状況は十分にあり得る。特にそういう人は‘‘自身は優秀に違いない‘‘と思ってるはずで、現実とのギャップに苦しむだろう。)
そういう意味ではすべてを信仰するのは、危険である。あくまで信じるに足る部分のみ信じるべき。彼が有罪判決を受け、辛酸を舐めたことも覚えていて欲しい。
手錠をかけられると言うのが楽しいはずがない。
覚悟が無い人間は「夢物語」として読むべきで感化されてはならない。
神学と社会主義
★★★★★
稀代の論客、佐藤優氏の青春譚である。キリスト者の母、社会主義者で政治家の叔父を持つ佐藤氏は埼玉県一の名門浦和高校から、何と無神論研究を目指して同志社大学神学部に入学する。当時神学部に入学するのは牧師を目指すものが大半で、研究者を志向する者はほとんどいなかったという。「無神論研究」を堂々と話す受験生を合格させる同志社の教授陣の度量もたいしたものだと思うが(入試には面接がある)、教授たちの目論見どおり佐藤氏は19歳で洗礼を受ける。
話の大半は、この同志社時代であり、佐藤氏は一方で膨大な専門書・思想書を読み漁り、他方では学内の政治闘争に巻き込まれる。私は佐藤氏と同世代であるので俄には信じ難いが、当時関東の大学では学生運動はほとんど収束していたのに比し、「同志社ガラパゴス」と呼ばれていた同大ではまだ学内のセクトが盛んに活動していた。激しい時には拉致監禁、暴力も辞さないというから(当時としては)尋常ではない。
佐藤氏はセクトとは距離を置いていたが、当時から社会主義の書物を読み込んで弁が立ったのと、ある種のカリスマ性があったため学内では一目置かれるようになる。さらに学問に関しても優れた教授陣の指導の下、神学書や哲学書を渉猟、そして個人でも社会主義の書を濫読する。この神学部の師弟の結びつきの強さ、暖かさはうらやましいほどだ。
本書はタイトルにある「マルクス」研究の話では全くないので、そこを期待すると裏切られる。佐藤氏自身が公言しているように、彼はマルクス主義者であったことはない。クリスチャンであり、保守主義者である。神学に疎いものにはサッパリ理解できない記述も多々あり、話があちこち飛ぶので読みにくいところもあるが、異様な迫力で持ってぐいぐい読ませる。(この「実録の迫力」というところで本書には全く関係ないが、なぜか稲田耕三「高校放浪記」(60年代末の所謂不良学生が高校中退を繰り返す話)を思い出してしまった)
佐藤優ファンにとっては、なぜ大学院で神学研究をしていた氏がノンキャリアの外交官になったのか、社会主義と神学に対する知見が矛盾なく同居しているのはなぜかを知るのにいい。そして学問への情熱、熱い友情を謳歌する青春物語としても大変面白い本である。
何を考え、どう行動したかがわかる。
★★★★★
大変素晴らしい書籍です。
佐藤優氏が青春時代どう考え、どう行動したかが改めてわかる。
こんな青年は、ほんとに杞憂な存在だと思う。
この青年時代があったから、今の佐藤優氏があるのだと、つくづく思った。
ちょっと読むのに時間がかかるが、氏の思想の根底を知るには必読の一冊。
佐藤氏の学生運動の話
★★★★★
『国家の罠』(逮捕前後の話)、『自壊する帝国』(ソ連崩壊前後の話)、『獄中記』(獄中の話)と読んできたが、感じとしては『自壊する帝国』のようなお話要素はありながらも、ややこしい議論の部分が増えた感じ。神学や共産主義に関する長めの引用が結構でてくる。お話要素というのは、佐藤氏が神学部生としていかに活躍(暗躍?)して、様々なセクトやら教授陣やら自治会やらと渡り合ったかみたいな話で、著者は学生時代から緊迫した空気の中で生きてきたのかとわかる。学生運動を舞台としたちょっとした青春小説としてもおもしろく読める。ただ、内容的には「私のマルクス」というより「私のキリスト(神)」という感じではないか。年次を経るにつれてマルクスは色あせていき、いつしかほとんど忘れられ、神学の話ばかりが表に出てくる。
もっとも、私は神学にも社会主義の細かな思想的側面にも興味がなく、引用部分などほとんど表面をなでるように読んだだけだが、それでもぜんたいとしては興味深く読めた。