雅子妃と日本皇室を描いたベン・ヒルズの魅力的な本書は、東京や日本の地方都市、オックスフォード、ハーバードなどの取材に基づいて書かれたものだ。また、雅子妃や皇太子の友人、恩師、元同僚をはじめ、日本、アメリカ、イギリス、オーストラリア各国の関係者にもインタビューを敢行している。その多くが、これまで公には語ることのなかった人たちだ。本書はそうした情報をもとに、皇室のもっとも暗い秘密――天皇や皇室に対する畏敬の念から、日本では決しておおっぴらに語られることのない秘密に光を当てている。さらに、天皇の役割、女性の地位、メンタルヘルスや体外受精に対する考え方、官僚の持つ権力など、日本人のほとんどが敢えて口にすることのない疑問をも投げかけている。だが何よりも本書は、悲劇的な失敗に至った恋愛の物語でもある。
ベン・ヒルズはオーストラリアを代表するジャーナリストで元東京特派員。オーストラリアのピューリッツァー賞と言われるウォーキー賞、1年でもっとも活躍したジャーナリストに与えられるグラハム・パーキン賞を受賞している。著書に『Japan: Behind the Lines』(特派員として日本に滞在した3年間を記録した本)、『Blue Murder』(西オーストラリアにあるCSR社ウィトヌーン・アスベスト鉱山の公害被害者が起こした裁判を追った本)がある。