ごく普通の銀行員だった主人公トムキンスが小さな宇宙に閉じ込められたり、量子力学が支配するジャングルを探検したり、はたまた陽子となって粒子加速器の中を猛スピードで回らされたりと、刺激的なストーリーが展開される。トムキンスと一緒に摩訶不思議な世界を探検しているうちに、宇宙の運命やブラックホールの謎、反物質、クォークなど、最新の物理学が学べてしまう楽しい科学読み物だ。
著者のジョージ・ガモフはロシア生まれの科学者で、量子力学のトンネル効果の発見やガイガー-ヌッタルの法則の発見などで知られている。また恒星の進化について論じたり、宇宙がビッグバンに始まったとして元素の理論について論じたりもしている。
こうして科学者として活躍する一方で、ガモフは一般読者向け科学解説にも尽力した。その一環が本書の原作である『不思議の国のトムキンス』で、ガモフはこれらの成果をたたえられ、1956年にユネスコ・カリンガ賞を受賞している。残念ながら彼は68年に交通事故で亡くなってしまうが、著書だけは不朽の名作として人々の心に残されることとなった。本書は、いわば科学を愛したガモフの遺産であり、遺志である。(土井英司)