前人未踏の偉業に脱帽
★★★★☆
ギャンブル好きにとって、実際にその現場である「場」に足を運んでみるというのは大きなテーマであるに違いない。本書は競馬ライターとして、評論家として、すでに実績のある筆者が本職である(?)競馬場のみならず、競輪、競艇、オートまで、そのすべてを踏破したという、壮大な「旅打ち」の記録である。何といってもその数は100を超えるのだから、それだけでとてつもない価値がある。競馬場、競輪場と、単独種目での全場踏破はあっても、全種目全場となると前人未踏の偉業に違いない。
「旅打ち」といえば行く先々で味わう、その土地ならでもの名物も大きな楽しみのひとつだが、その辺のガイドぶりにも抜かりはない。「旅打ち」の歴史にも触れていて、「帯広の白浜」なる猛者のエピソードなどは大変興味深かった。
また、小松島競輪と飯塚オートではその誕生前後の歴史にも言及している。個人的にはこの辺がいちばん面白かったが、「旅打ち」のテーマからはいささか逸脱していないだろうか。たまたま参考文献を見つけてしまったということなのだろうが、ここだけ詳しく掘り下げているというのはいささかバランスに欠けると思う。
この手の資料は探せば、まだどこかに眠っているはずだ。ここはあえて「旅打ち」から切りはなし、別の視点から書き起こせば、大いに価値のあるまったく別の本が書けたのではないか。
歴史に関する箇所では、美濃部都知事時代の「公営ギャンブル廃止」を「婦人票目当ての筋の通らない話」とばっさり切り捨てているが、いくら公営ギャンブルが好きだからといってこの書き方はいただけない。もし論を張るならそれなりの検証が必要だし、その気がないのならこの話には触れないほうがよかった。
最後に重箱の隅をつつくような指摘になるが、参考文献にある「『競輪五十年史』JKA」という表記は正しくない。出版時の名称である日本自転車振興会とすべきである。どうしてもJKAとしたいなら「オートレース二十年史」もそうしなければならない。
「旅打ち」の魅力を語り尽くした本
★★★★★
100近くある日本の公営競技場を訪問してギャンブルをする「旅打ち」の魅力を縦横に語る。粗製濫造、中身の薄い新書がまかり通る中、著者は国内の全公営競技場を踏破して本書を取材している。そして、新書という限られたスペースの中で、単なる競技場訪問記にとどまらず、戦前からの歴史、先行作品研究、公営競技場の持つノスタルジーなどの観光性なども盛り込み、深みのある本に仕上げた。
「廃場訪問」「競技場グルメ」など旅打ちスタイルの分析や、荒尾やばんえい、小松島など、地方色がよく出ている競技場の訪問記は写真が豊富で、文章と共に濃厚な「昭和っぽさ」が伝わり楽しく読める。また、「泡」「米」なんて隠語を使って禁制品の販売をしていた、など各章末のコラムも読みでがある。観光地を巡る普通の旅は、当地のよそ行きの姿を見るだけだが、ギャンブルは本当の地元を楽しみながら見られる希少な場だというのがよく分かる。
非常に中身の詰まった本で、途中で休まず一気に読み切った。どちらかというと紀行文好き寄りだが、ギャンブル好きの人もデータ本としてそれなりに楽しめると思う。個人的に公営ギャンブルはギャンブル以上に、文化や行政としての興味でしか見ないので、競馬予想家としての著者の力量は分からないが、競馬ライターとしての著者の目は、今まで考えていた以上に冴えていると感じると共に、とかくJRAやホースマンに迎合するか、逆に斜に構えるという書き手が多い中、掛け値なしにギャンブル文化を愛していることが、本書を読んでよく分かる。公営ギャンブルは次々と廃止傾向にあるが、本書でノスタルジーという魅力を再発見してもらい、少しでも売上回復に…と底辺から公営ギャンブルを盛り上げたいという著者の考えに好感も持った。新書ではなく、出来ればもっと厚い本で読みたかったが、採算度外視の労作であること、本書執筆の理念に共感して☆5。