「犀川・萌絵」シリーズや「V」シリーズなどの作品で、独自の本格推理小説の世界を構築してきた作者による、書き下ろし長編小説。以前に上梓された『女王の百年密室』の続編である。本書を手にする前に、あらかじめ前作を読んでおいたほうが、より深くこの物語を堪能できるだろう。
現代より1世紀ほどの未来。主人公でジャーナリストのサエバ・ミチルと、パートナーのロイディが今回訪れるのは、海原に浮かぶ城塞都市「イル・サン・ジャック」だ。一夜にして海に取り囲まれたという伝説があるこの街は、女王メグツシュッカのもと、外部との接触をほとんど拒否している謎めいた街である。宮殿を取材で訪れたミチルたちの前で、僧侶クラウドの首なし死体が発見され、ミチルが犯人と疑われてしまう。
今回の舞台となる城塞都市も、美しい女王が統治する平和で豊かなユートピアだが、同時に中世のイメージ漂う閉塞した世界でもある。しかし前作といささか趣が異なるのは、殺人事件そのものはあまりストーリーの根幹に関わらないといった点だろう。それよりはむしろ、都市自体を動かす社会システムの秘密や、「肉体と精神の関係」といったような哲学的なテーマがこの物語を色濃く覆っている。殺人事件の真相も、そしてミチル自身の秘密もその延長上で静かに語られ、やがてその謎が解き明かされていく。すべてが白日の下にさらされたとき、この作品を単純にミステリーと呼んでいいのか。形而上学的な内容と雰囲気、そしてそれらを形作る透明で詩的な文体が、読み終わった後にそう問いかけてくる。(文月 達)
スズキユカの画が森博嗣によく合う
★★★★☆
これは面白かった。やっぱりスズキユカの絵はこのシリーズにあってる。スカイクロラのシリーズもコミック化して欲しいな。
森博嗣の描く百年後の世界。
★★★★☆
百年後、世界はどうなるのか?この百年シリーズで、森サンは世界を創造します.舞台はモンサン・ミシャルをモデルにした孤島。そこでおこる首なし殺人。しかし物語はミステリというより、SFであの天才が創造主として登場します.ヒトとは何か?自己とは?意識とは?あの「巧殻機動隊」シリーズのようなクールな作品に仕上がっています.
ビジュアル化の成功例
★★★★☆
ミチルとロイディの容姿は自分の中のイメージと少し違ってましたが、他のキャラクターはバッチリです。
正直、小説を漫画に限らず映像化すると、大体イメージが食い違っていてガックリくるのですが、この作品は原作の雰囲気をよく捉え、上手にビジュアル化してあると思います。
流石に展開のスピードは少しばかり速いですけどね。
絵柄もシンプルで丁寧に描かれていて、好感が持てます。表紙のイラストも美麗で素敵です。
ロイディがほしい
★★★★★
22世紀を舞台にしたミステリー。
しかし、隔離された島を舞台にしているためか、
中世ヨーロッパを舞台にした
ファンタジーのようでもあります。
屈折した感情を持つミチルと
本来感情を持たないはずのロイディの
人間くさい掛け合いがほほえましいです。
自分の存在に苦悩するミチルは
非常に哲学的で、
自身の存在理由などを考えさせられます。
ミステリではないが、SFとしては秀逸
★★★★☆
前作「女王の百年密室」とともに、出版社側はミステリとして売っているんですよね。別にジャンルにこだわる訳ではないのですが、ミステリと言われるとちょっと抵抗が強いです。SFと思って読むと、これはなかなか興味深い作品です。
「人」が死んで、その死んだ謎に迫りますが、謎を解くこと自体が目的のいわゆる「本格物」とは違って、近未来を舞台に人が生きるということ、ロボットやアンドロイドに近いウォーカロンの存在意義、謎めいた閉鎖世界の風景を美しく描いています。いかにも森博嗣さんが描く世界といった感じで、この世界に浸ることができればこれほど楽しくて哀しいことはないはずです。
ミチルとロイディの会話はものすごく深くて、つい読み返してしまいます。
評価はSFとして。ミステリなら☆2くらい。