本のつくりは、読売新聞記者などによる受賞者10人の評伝、受賞者(野依氏、江崎氏、大江氏、白川氏)の講演録、そして科学ジャーナリストによるノーベル賞関係の評論、とったところ。とくに評伝は素晴らしかった。さすが第一線で活躍中の新聞記者たちが書いただけあって、とても読みやすい。受賞者から直接仕入れた「生」の情報もたくさんあってよい。
10人のうち7人が科学三賞の受賞者なので、本全体としては科学の色合いが強い(文学賞大江氏の講演も、科学がテーマだ)。
白川氏の「導電性ポリマー」の発見は、ある実験で研究生が単位をまちがえ、1000倍も濃い触媒を入れてしまったことが引き金になったという。そうした偶然を見逃さなかったこと(セレンディピティ)が、ノーベル賞につながったケースもあれば、利根川先生のようにものすごい勢いで研究を続け、ただひとりぶっちぎりで受賞したケースもある。賞を獲るまでのいきさつは千差万別だ。
ただ、おおまかな傾向を上げるならば、海外に出てからの研究がノーベル賞につながる例が少なくない。このあたりは、最後の章「世界への挑戦」で書かれている科学教育のあり方にもつながってくるだろう。
受賞者の評伝や、受賞者の生の声を読んで夢見心地になっていたところで、最後に国民の科学への関心のなさや日本の科学教育の迷走ぶりという現状を示される。気分が現(うつつ)に戻されたところで、この本は終わる。本の最後で少し重たい宿題を出されたような感じだ。