2003年5月にボストンのバークリー音大を卒業した上原ひろみ。これはバークリー在学中の’02年に録音したデビュー作。テラーク・レーベルからの発表で、いわゆる逆輸入アーティストだ。この人の演奏を聴いて一番感じるのは、音楽性の幅広さ。ビル・エヴァンス以降のピアノだけでなく、アート・テイタム時代のジャズもしっかりマスターし、そのうえコンテンポラリー・ジャズやフリー・ジャズの要素も聴かせるのだ。その点を本人にたずねたら、「バッハを弾けずしてショパンは弾けないって、先生に言われたんです。それで昔のジャズ・ピアノを聴いて、それからチック・コリアやハービー・ハンコックを聴いた」のだとか。
全曲オリジナルというのが大胆不敵。この人の曲には同時に複数の要素が詰まっているのが特徴だが、それはクラシックの作曲家の影響を受けているから。TVのドキュメンタリー番組に出演したことによって一躍、時の人になった感があるが、ただの人気者でなく、確固たる意思を持った才媛であり、その演奏は時代の最先端を突っ走っている。(市川正二)
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