究極の「祈り」
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我々は、意識しているか無意識かを別にすれば、
それぞれの心に、広い意味での「信仰」を持っていると言えると思う。
神道、仏教、キリスト教、イスラム教といった宗教への信仰を持つ人々は多い。
反対に「神様なんて、いない」と考える人も多い。確かに通常の意味では
神様なんていない。私もそう思う。しかし神を信じない人であっても、
心の中に「良心」を持っているし、平和を願う気持ちを抱いている。
通常この「信じない心」を信仰とは言わないが、
この「信じる心」と「信じない心」という二つの心の在り方が、
神といわれる存在に対する典型的な心のありようだと私は思っていた。
ところが、野田秀樹は、その二つのどちらとも異なる
「この世の創造者に対する心の在り方」を表明している。
戯曲「オイル」の主人公である「富士」の最後のセリフに、
私はそれを強く感じ、心を激しく揺さぶられた。
天国があるというのなら、何故あの世に作るの?この世にないの?
富士は神に問いかける。神様を信じたい。でも、信じられない。
でも、ほんとうは、神様に助けてほしい。
このセリフは実はこの演劇の冒頭の富士のセリフでもある。つまりこの
「オイル」という演劇は、この富士の切実な願いをめぐる物語なのだ。
本書に収められた3編の戯曲は暴力を描いた作品である。
しかし、そこに、野田秀樹の、究極の「祈り」を感じる。
タイトル通りの戯曲集
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野田秀樹が近年特に着目する「暴力」についての3作品。
日常の中で我々は加害者と被害者の双方であると気付かせる手腕は見事です。
但し、多少の悪寒を覚悟して読んで下さい。
臭い物にふたをせずに
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臭いものにふたをせず、
残酷さをありのままに。
どこまでもまっすぐ胸を刺すセリフたち。
芝居をみたことがない人にも読んでほしい作品。