1949年生まれの現代アジア政治経済学研究者が2001年4月(9・11テロ直前)に刊行した230頁ほどの新書本。韓国・台湾・インドネシア・マレーシア・シンガポールといった現代アジアの諸国家は、それぞれの個性を持ちつつも、大きく見れば共通した戦後史をたどっている。それは1940-60年代の脱植民地化と国家統合の時代から、1960-80年代の開発独裁の時代を経て、1980-90年代の民主化の時代に至る歴史である。著者はこの内、開発独裁=国家優位から民主化=市民社会優位への転換(マレーシア・シンガポールでは未だ変化が小さいが)に特に注目し、その過程・要因・程度・課題等を各国別に分析している。この転換の根本的要因は、開発独裁下での輸出志向型の経済発展が中間層とNGOの台頭をもたらし、開発独裁の基盤を掘り崩すというものだが、その際韓国では対北朝鮮関係が、台湾では外省人対内省人の対立が、インドネシアではイスラムの台頭や華人政商とスハルト体制の癒着が、マレーシアではブミプトラ政策の動揺(種族政治の再編)とイスラムの台頭が、シンガポールでは小国であること、英語教育中間層と選挙制度の問題が、それぞれ影を落としている。またアメリカの人権外交の影響についての指摘も興味深い。5カ国を比較しているためか、やや議論が錯綜して分かりにくい感はあるが、概して本書の内容には教えられるところが多い。ただ、アジア全体の中でのこの5カ国の位置付けはいまいちはっきりしない(フィリピンの分析も欠如)。また本書は一部にグローバル化についての指摘もあるものの、基本的には「一国主義的」な「政治史中心」の「モデルの比較分析」であり、ないものねだりかもしれないが、国際経済史の視角や「地域」単位での分析が欲しいところである。