しかし、ここで記者たちが最も描きたかったのは、近代化の意気込みに 燃えて、
それらの事業に邁進したその時代の人々の気概だったのだろう と思います。すでに
役割を終えた遺産、他の用途に転用されている遺産、 それらの外観から漂ってくる
のは、寂しさであり、ある種のなつかしさ です。しかしその背後には、強い決意を
持ってそれを築き上げた人々の 独自の歴史が隠されています。
兵庫の北野異人館や長崎のグラバー邸といったメジャーな建築物ももちろん多数含まれているのですが、東日本版に比べると、長崎の軍艦島や京都の琵琶湖疎水、富山の黒部ダムといった産業遺産や土木遺産の割合が高く、その分、その物件にまつわる、当時の日本人の気概の強さを初めとする人間ドラマについても、興味深く読むことができました。
東日本版同様、この本があれば、旅行や建築探偵がさらに楽しくなるのではないでしょうか。