ちゃんとした本だけど、新書としては...
★★★☆☆
本書は、源氏による東国雄飛の一大契機ともなった、前九年・後三年の役について、厳密な史料の読み込みを基礎に、経過と概要を示すものです。また、その背景として、11世紀の中葉から後半にかけて奥羽の地に覇を唱えた安倍・清原両氏の興亡を考証しています。
内容的には、歴史書として極めてオーソドックスな書き方となっています。すなわち、テキストや異本の吟味、地名の比定、関係人物の出自や生年の考証などなど行ったうえ、両役の経過等について、「陸奥話記」だの「奥州後三年記」だのといった史料の記載に照らしながら検証していくという形です。文献史料が乏しいテーマだけに、こうしたキチッとした姿勢が大事なことは言うまでもありませんが、正直なところ、読んでいて疲れました。
例えば、後三年の役。乱の発端となった成衡婚儀から義家の陸奥守拝命まで何ヶ月かかったのかといった話、あまり興味を持てないのは、ひとり小生のみではないと思います。要するに、大学の授業で語られるようなことと全く同類の話で一冊が組みあがっているという印象を受けました。
前九年にせよ後三年にせよ、実証性を度外視してイージーに論じる向きが目につくなか、本書の如き厳格な姿勢には敬意を表したいと思いますが、こうした内容を新書という形で一般の読者向けに出版することについては、些か疑問なしとしないところです。