自伝として傑作
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まず、この本はかなりの戦記本に大きな影響を与えています。この本より後に書かれた戦記本には本書からの引用が多数見られるのみならず、底本にしているものも多く、間接的にこの本の意義というものがわかると思います。
最初に書かれている第一次世界大戦までのあまり長くない章もなかなか面白いのですが、その後の第二次世界大戦直前までの戦間期がこの本の白眉といえましょう。一つの革命的な兵種が作られていく過程が描かれ、特に保守的な騎兵による抵抗と無理解な周囲に対して数少ない理解者と共に作り上げていくのは非常に興味深いところでしょう。また、理論面ではどこから引き出してきたのか、また演習で何ができたのか、など貴重な証言ばかりです。
そして見逃せないのがヒトラーとの関係でしょう。結果的にはヒトラーの鶴の一声が決め手になったわけで、モスクワ正面で罷免されたために見落とされがちですが、グデーリアンは紛れも泣くヒトラーのお気に入りであり、そしてグデーリアン自身もヒトラーを大いに肯定しています。この関係はグデーリアンを貶めるものではなく、むしろドイツの英雄であるヒトラーを再評価できるものではないかと思います。ヒトラーの施政には、国民から評価されるべきものもあり、まただからこそ支持者が多かったという事実もあります。
ポーランド戦以降は実戦部隊指揮官としての手記になりますが、付属の地図と記載に関連性が薄く、文章では細かい地名が沢山出てきますが、実際には付属の地図のどこにいるのかが非常にわかりにくく、これは原版の翻訳である以上しかたないのでしょうが、改善できなかったのでしょうか。
ヒトラーに罷免後は短い予備役時代の章をはさんで後方勤務の装甲兵総監時代から参謀総長時代までですが、ここらは描写も少なく、どちらかというと愚痴が多いのは仕方ないでしょう。また、再度罷免されるため、結果的にはその大きな影響力の割には指揮官としての時代は長くなかったという点もあります。
後半のナチ党の人物を評価している部分は、人によっては興味があるかは分かれるでしょうが、1人の軍人の下した評価としてみると興味深いものが有ります。特にヒトラーに対する評価では、ベルサイユ条約の屈辱を身にしみている世代であるだけに、そこから強国へと導いたヒトラーの手腕は肯定すべきものなのでしょう。もちろん手放しの全面肯定ではありませんが。
これはあくまでもグデーリアンの自伝であり、その主張が全て正しいわけではないでしょうが、まずはこの本を読まないことには、第二次欧州大戦の歴史を知ることは始まらないでしょう。
装甲軍団はかくして生まれた
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無線部隊での経験と本来の専門ではなかった輸送交通の部門に配属され上司と共に研究をするうちに次第にヨーロッパのど真ん中という地理的な条件から戦争に勝つためには短期に全兵科を移動させることを考え出し、それまでの戦場の花型であった歩兵や騎兵部隊幹部の妨害を受けつつも、装甲部隊を育てあげていく様が書かれている。抵抗勢力に対しての歯に衣を着せぬ発言は本書で十分発揮されていて気持ちよいが、「ドイツ参謀本部」の著者であるゲルリッツには短気で我慢が足りない奴と映っていたようだ。プロイセン以来参謀本部を始め聡明とおもわれがちなドイツ軍の頭脳も意外や頑迷なお方がたくさんいたのだと驚かされるとともに初期の装甲部隊はその力も運用もまだまだ未熟でポーランド戦ですら薄氷を踏むような戦いであったことが詳細に書かれているとともにヒトラーの外交と戦争経済に対する当時の言動にも触れられており、歴史の流れを見るという意味でも本書はおもしろい。下巻は絶望的な状況の中での総長就任であるため、指導者クラスへの批判が多い構成となっている。
ブリッツ・クリーク!
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「戦車の神様」として近代戦において、グデーリアンの名はイギリスのリデル・ハートとともに戦史のなかで輝かいている。彼の悲劇は大戦略家と自称する「最高司令官殿」に恵まれなかったことであろう。彼がもしビスマルクの時代であれば、モルトケの役を演じることができたかもしれない。
特に戦いの緒戦、ポーランド、フランスおよびロシア開戦時の進撃の速さは、まさに革命的で戦い方まで一変してしまった出来事であった。その戦い方をソ連軍が身につけ、自分のものにしてしまったことはなんとも皮肉である。