著者自身がチャーチルの伝記に基づいていると述べている通り,本書は彼の生い立ちから政治家として頂点を極めた時期までを伝記風にまとめている。ロイド=ジョージほか,19世紀末から20世紀半ばまでの主要な英政治家も登場し,英近代史を学べる点もある。
ただ,著者はチャーチルの「政治的人格」を探ることを目的としているが,やや物足りない部分があることは否めない。たとえば,ドイツへの無差別爆撃や英ソ間によるバルカン半島利権分割に対し,彼の「人格」はどのように働いたのか。上述の通り,英近代史への掘りは深いが,外交(戦争は究極の外交手段)上における彼の叙述に欠けている。