さくら書房
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おもに奈良、近江地方の寺にのこる十一面観音菩薩像をめぐる紀行文です。むかしの人たちが、西国から渡来した美しい観音の姿に太古から伝わる神の俤(おもかげ)を重ねて信仰してきたこと、それが現在もなおその地方の人たちに受け継がれ、仏像はひっそりと大切に守られていることに感動します。八百万(やおよろず)の神と無数の仏が習合し混交しつつ存在してきた多神多仏のわが国において、それは特異な宗教形態でもなんでもなく自然なことであったこと、そして仏との関わりは政治(まつりごと)においてだけでなく人々の暮らしの中にとけこんでいたことが分かります。信仰心の薄らいだ現代とはいえ、わたしたちは美しい御仏の姿をとおして古人の純粋な信仰心にふれることができるのです。