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放浪記 (新潮文庫)

価格: ¥780
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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お芙美さん ★★★★★
お芙美さんは生前も現在も、いわゆる芸術至上主義
的な人たちに軽く扱われ、
映画や舞台でダイジェストに描かれたこの作品も、
勝手に、女の泣き笑い立身伝と受け取られています。

ちゃんと読めば分かる通り、
この本には映画や舞台版には欠けている、
あふれるポエジーとユーモアがあります。

そして、一見デタラメに出来事を羅列している
ように思えて、最後まで破綻しない。
お芙美さんは、バランスを取るバーも何も
持たないで、見よう見まねでプロでも難かしい綱渡りを
成功させた、とんでもない人です。

そこが、基本、大学の同人誌の派閥で
構成されていた、当時の文壇には、生意気に映ったのでしょう。

死後すぐに出た「文藝」別冊の追悼文は、
お芙美さんを、追悼号なのにけなすような内容が、
多かったのです。

ぼくら素人にはそんなこと関係ないです。
お芙美さんの、ワンアンドオンリーな
シビアでのほほん、とした世界に浸りましょう!!
やられた ★★★★★
著者が書き留めた日記の中から、抜粋して第一部を発表すると、大反響となった。そのため、さらに抜粋し第二部、第三部と発表し、それらをまとめた一冊である。
となれば、第一部が一番イイに決まっていると思っていたが、そうでもない。第二部の冒頭でやられた。感情表現がストレートで、心にどうしても染み入ってくる。
逆境にあるなかでも、明るくて、可愛くて、したたかで、好感がもてる。
からっと明るいダダイズム ★★★★☆
ふしぎな日記だ。
金がない、詩が売れない、腹がすいた、仕事が辛い、捨てた男が恋しい、母も恋しい、いっそ死にたい、さもなければ身売りしてしまおうか。
それらをみな一緒くたに、小気味よいリズムの文章と詩に巻き込んでしまう。
頽廃的なことばかり延々と書き連ねてあるのに、何だか軽妙なのだ。
たぶん、少女時代を過ごした尾道の海のように、根が明るいひとなんだろう。
そして腹の底には、赤いマグマをふつふつとたぎらせている。書きたい読みたい人恋しい。
だから文章が湿っぽくならない。どこか一点がすこんと抜けて、愚痴が愚痴に聞こえない。
放浪の中にある人生 ★★★★★
「放浪記」は、林芙美子の代表作であり、昭和5年に刊行されたもの。
本書ではそれに続く「続放浪記」と、戦後に発表となった「放浪記第三部」も併せて収める。
昭和初期の作品だが、今もこの作品を原作とした舞台が森光子主演で演じられ、
45年に渡り1800回以上の上演数を記録。なお継続中となっており、メディアでも取り上げられることが多い。

彼女が書き留めてきた雑記を元とする作品だが、
時系列に整然と編集されているわけではなく、雑然とした構成である。
文体もまた洗練より奔放さを感じさせる。
が、そんな一種”粗雑さ”が、作中に描かれる極限的な貧困と、
反発し喘ぐように生きる強さをかえって引き立てている気がする。
時に彼女の見せるあけすけな情感や、無政府主義的な態度などは、
読んでいるこちらが際どさを感じてしまう程である。
昭和初期の女性がこうまで書くものかと、今更ながら驚かされる。

第二部の冒頭
「私は生きる事が苦しくなると故郷というものを考える〜<略>〜
私には本当は、古里なんてどこでもいいいのだと思う。
苦しみや悲しみの中に育っていったいったところが古里なのですもの」
これが彼女のこの作品を表している気がする。
作中に脚色を指摘されることもあるが、あらゆる意味で彼女の生きる覚悟を垣間見る。

桜島、古里温泉は彼女の原籍地と言われる。
海の見える温泉地。ふるさとに迷う彼女の始まりの土地の名が”古里”であった事は、
皮肉であるようにも、何か運命的であるようにも思えてしまうのだ。
ある女性の生き様 ★★★★☆
著者の日記を抜粋しまとめた作品です。貧困の生活の中、定住せず、放浪した生活の記録です。貧乏のため、絞り出すような声が聞こえてきそうですが、あくまで強く生き、どこかあいらめたさめたような視線があります。現代では、やや古めかしい感じもありますが、巻末に注があり、想像の助けとなります。とてもユニークな作品になっているので、読む価値があると思います。面白ろおかしい本ではありません。生きることの大変さがわかります。著者は一生懸命生きた人であり、そのことが胸を打ちます。