外交の側面から今後の日本あり方を考えさせてくれる格好の材料です
★★★★★
渡辺氏は日本の「海洋国家」として自立する道を提唱しています。そのためにもかつての日英同盟、現在の日米同盟の重要性を強く主張し、ざっくばらんに言えばユーラシア大陸国家のゴタゴタに巻き込まれないようにするよう提言しています。
しかし、依然として世界最強の軍事大国とはいえ米国がアフガニスタン・パキスタンの泥沼からはいだせず、また平然とドル凋落が時間の問題と議論されている今、アメリカとの絆を強く保ち続けることが、「海洋国家」としての日本存立に資するのでしょうか?
渡辺氏の主張には多くの点で賛同します(安易に中国、ロシアと共同体的な関係を結ぶことのリスク、「海洋国家」(かつてのヴェネツイアのような?)として生きていく点、そのためには同盟国が必要である点)が、かといってそれが日米同盟維持・自国軍事力の強化に結びつけるのは一層の検討が必要だと思います。
#上記でアメリカ凋落じみたことを書きましたが、真偽はともかくとして、相変わらずの「右向け右」の日本のマスコミには辟易しています。
#また、渡辺氏は司馬遼太郎氏「坂の上の雲」にかなり影響されておられるようですが、氏に限らず「司馬史観」一色といっていいほどの現在の日本の自国歴史観には危ういものを感じます。司馬氏の偉大さに反対するものではありませんが、なんでも司馬氏を持ってくるのもいかがなものでしょうか?
近現代史を再編集し、現在への教訓とする
★★★★☆
著者が本書で意図するのは、近現代史を再編集し、それを現在への教訓とすることである。近現代史の再編集に重点が置かれ、書かれていることのほとんどは、日清・日露戦争前後の日本を取り巻く国際情勢である。
第一次大戦後、アメリカの画策により日英同盟が廃棄となるのだが、これが敗戦への道への出発点になったのである。同じ過ちを繰り返さないため、日本は海洋国家として海防を充実させ、海洋国家との同盟体制を敷くべき、と言う著者の主張には頷くしかない。
ちなみに、福澤諭吉の脱亜論が発表されたのは日清戦争の9年前である。
先人に学ぶ
★★★★★
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという。現在日本がおかれている極東アジアの情勢は、東西冷戦を終えたものの、依然として予断を許さない状況が続いている。そこで日本がいかなる戦略をとるべきか、近代史の先人の経験に学ぼうというのが本書の趣旨だ。
アジア研究の第一人者である著者は、日清、日露戦争、第一次大戦といった歴史的事件に現在の日本とのアナロジーを見出し、教訓を引き出す。
安易な幻想論を排し、アメリカとの集団安全保障体制を重視すべきだという結論にいたる。これが一番確実に日本の安全保障を確保し、真の意味でのアジア地域の安定を得る方法であると言えよう。
歴史の活かし方
★★★★☆
過去の歴史をそのまま現代に当てはめることはできない。しかし、過去の歴史を参考にし、現代に活かすことはできる。そう考えると、とても示唆に富む内容の書籍だと思う。
20世紀の、日本を軸にしたアジア外交の歴史を、非常に分かり易く、人物本意で描いた本書は、新書で出すにはおしいくらいに感じさせる。
激しく同意するのは、「20世紀前半の日本を取り巻く状況と、現在の日本の状況は非常に似ている。異なるのは、昔は政治家・外交家が日本の自主独立を守る気概があったのに比べて、今はその気概がまったくない」というようなことを著者が述べていることだった。