「地球人にもいるんだね。ああいうの」
★★★★★
今回の逃亡犯・ワッツは小物と知られた強盗犯で、実際それほど悪人ではない。
罪の意識もある彼が地球人の少女・村野理恵子(リエコ)と
出会ったのは彼が元オルゴール職人で、リエコがオルゴールが大好きだったから。
シェンは彼女の性格が過去の自分とダブって見えることに複雑な感情を
抱き、また逃亡犯であるワッツを庇護するような彼女に怒りを剥き出しにします。
しかしシェンの恋バナか?と茶化し込む気も吹き飛ぶほど敵の存在はすさまじいです。
逃亡犯であるワッツがリエコに介入することになったきっかけとなった人物が、
ドリームバスター史上最悪の地球人・柿本。
自分の殺した人間や動物の死体をコレクションして悦楽に浸る彼が
ドリームバスターたちを"自分の夢の中におびき寄せた"のはさらなる欲求のため。
「エイリアンの悲鳴 超聞きてえ!!」と両手に包丁持って襲いかかってくる挙げ句
本性を現し、巨大な怪物のような姿となって襲い来るさまは逃亡犯を超える凶悪さです。
なんとか柿本の夢の中から逃げだしたものの得るものはなく、
リエコは事の顛末に気付き涙枯れるまで悲嘆に暮れる。そんな彼女を
慰めることもできず、シェンはただ見つめることしかできなかった…。
というようにシェンの出てくるパートは締められます。
最後に柿本がドリームバスターという存在を知ることになったきっかけの人物と再会します。
彼にそれを教えたのはシェンの母親であり、最凶の逃亡犯である血塗れローズ。
シェンの目的である彼女の登場は、今後の展開に何をもたらすのでしょうか。
魅力的なキャラクター
★★★☆☆
この巻の見どころは何といってもカーリンの登場でしょう。芯がしっかりしていて気立てのいい彼女はシェンとは正反対ですが、二人のやり取りは読んでいて飽きません。田舎娘をここまで魅力的に描けるとは驚きです。宮部氏の持ち味はやはり個性豊かなキャラクターにあると思います。
他方で時空や夢に関する設定が精緻になってきていますが、読んでいてもあまり理解できないし興味がわきません。異世界の人間が夢の中で捕り物劇を繰り広げるという、かなりファンタジックな内容なので、どれだけ科学的要素で裏打ちしようとリアルにはなりません。作り話だと割り切ってしまったほうがよっぽど楽です。登場人物たちのやり取りだけでも十分面白いので、細かすぎる設定は蛇足だと思います。それに次の巻が出るまで間が開く本作にあっては、このような設定を忘れてしまう人も少なくないでしょう。
心優しきシェン
★★★★★
同じ時間律と平行世界にある地球とテーラ。テーラでは“プロジェクトナイトメア”計画の実験中、大爆発で “大災厄”にみまわれる。この時、実験台にされていた凶悪犯の50名がその時出来たふたつの世界を繋ぐ“抜け穴”から意識だけとなって地球人の夢の中に逃げ出した。夢を見ている地球人には親から虐待されている8歳の男の子、殺人犯を目撃してしまったOL等様々でその心の闇に付け入られ侵入されてしまう。そんな宿主を助けるべくまた、逃亡犯とも心を通わせつつ「ドリームバスター」のマエストロとシェンはシェンの母も含む賞金の懸けられたこれらの逃亡犯を追い、極悪犯の母をこの手で!と危険を冒し夢の中へと捕獲に出かける。そんな折り、逆に地球人の心中した男女と交通事故にあった11歳の男の子の意識が彷徨っている時間鉱山に調査に出かけたまま帰還を拒否し居残っている友人を探索・救出すべく出かけたシェン。が、彼もまた帰還を拒んだ。その理由は?
新境地
★★★☆☆
宮部ファンとしては、作品の幅が広がるのは嬉しい事なのですが、この手のストーリーになると、ちょっとつらい。年のせいかな。
と、思いつつ、これからも読んでしまうのかな?
新キャラクターの登場と作品世界が広がる巻
★★★★☆
SFマガジンに掲載された2篇と書き下ろし1篇を収録したシリーズの第3作目です。
先の2篇は前作の出来事を継承する内容で、後の1篇は次回作への布石といった感じの内容になっています。
前作までは捕獲ミッションを中心に描かれていましたが、本作では人物描写と世界観の形成に視点が置かれています。
新キャラクターの「カーリン」を迎るとともに、「時間鉱山」という新たな概念も加えて、より独自色の濃い世界が作り上げられています。
雑誌のインタビューで作者の宮部さんは全7巻くらいの作品に仕上げたいと言っておられるので、本巻は折り返し点一歩手前といったところではないでしょうか。