“The Office”をコメディと呼ぶのは正確でも適切でもないだろう。表面的にはシットコムのあらゆる約束事を侮っている番組だ。オチも、ジョークも、笑い声の効果音も、気のきいたハッピーエンドもない。もっといえば、私たちが普通におもしろいと思える要素がないのである。熱烈なファンのほとんどは、自分と重ね合わせ、悔しさの入り混じったぞっとするような気持ちで番組を見守っている。逆説的なのは、いちばんの見どころがたいてい観るに耐えないシーンであることだ。イギリスの架空の製紙会社のオフィスを舞台にしているこの番組は、リアリティ番組のスタイルで撮影されている。脚本は洗練され巧妙で、演技もキャラクターの造形もすばらしい。やせこけたチームリーダー、ギャレス（マッケンジー・クルック）、ぞっとするようなセールスマン、クリス・フィンチ（ラルフ・イネソン）、きちんとしてがまん強いごく普通の人物、ティム（マーティン・フリーマン）らが登場する。ティムの野心と創造性は、意味のない逃避を夢想しながら過ごしている陳腐な生活の中ですりへってしまっている。当初の狙いどおり、鼻持ちならないマネージャー、デヴィッド・ブレント（共同で演出、脚本も担当しているリッキー・ジャーヴェイス）がこの番組の人気をひとり占めしている。ブレントはバジル・フォルティ（70年代にBBCで放送されていたシットコム「フォルティ・タワーズ」の主人公で史上最悪のホテル・オーナーという設定）同様、奇怪なイギリス人の象徴となるに違いないが、フォルティより深みのあるキャラクターだ。フォルティは現実を誇張したキャラクターで、その分だけこっけいさも無難だった。だがブレントは現実だけが造形しうるすさまじく奇怪な人物になっているのだ。（Andrew Mueller, Amazon.com）

   “The Office”の第2シーズンは、ハイレベルな内容だった第1シーズンをはるかに上回っている。実際、風刺や皮肉を超えて、心の闇の部分にまで迫っている。リッキー・ジャーヴェイスはまたもやデヴィッド・ブレントを実に巧妙に演じているが、本シーズンでブレントがカメラに向かって主張する自らの管理職としての能力は、スラウ支社とスウィンドン支社の統合時に元スウィンドン支社のマネージャー、ニール（パトリック・バラディ）がイギリス地区担当のマネージャーとなってブレントの上司になったときに試される。ブレントは能力不足を補おうとして、エンターテイナー兼やる気を起こさせるコメディアンがたまたま職場にいるというねじ曲げられた自分のイメージをさらに強烈にしてしまう。一方ティムは小うるさいギャレスをからかってやっと平常心を保っており、受付嬢のドーン・ティンスリー（ルーシー・デイヴィス）に好意を抱いて悩み多い日々を送っている。ドーンは思いやりのある性格で、秘密にしている男性との関係にこだわっている。これまでどおり、ばつの悪い雰囲気で、リアリティ番組特有の中断と沈黙、ワンルーム式のオフィスで繰り広げられる感情的な溝に向かってこそこそと意味ありげに、しかし決して交差することなく配られる視線など、すべてが集約されている。ブラントについていえば、趣味の悪いバカ騒ぎから彼の挫折が始まる。「フラッシュダンスとMCハマーの融合」と自ら名づけた即興のダンスを披露するのだが、実際にはたとえようがないほどひどいダンスだった。これでブラントの運命が決まり、「フォルティ・タワーズ」と並ぶイギリス最高のシットコムであろう本作品の記念すべき最終回にブラント自身が登場する。（David Stubbs, Amazon.com）

   才気あふれる衝撃的なコメディ“The Office”は“The Office Special”で満足のいく結末を迎えた。もともとBBCのクリスマスの特別番組として2話放送されたもので、ドキュメンタリー番組に見せかけたドラマの第2シーズンのラストから3年後という設定になっている。ウェーナム・ホッグ社の元マネージャー、デヴィッド（リッキー・ジャーヴェイス）は、いまでは有名人のまねをなりふり構わず演じて何とか暮らしているが、かつてのオフィスにばつの悪い、屈辱的な訪問をする。そこにはいまだに自分を愛してくれているとデヴィッドには思える部下がいるのだ。ぎこちないギャレス（マッケンジー・クルック）はマネージャーに昇格しており、ちょっとした暴君になっている。やさしいが意地悪にもなるティム（マーティン・フリーマン）は前の受付嬢ドーン（ルーシー・デイヴィス）をまだ慕っている。彼女は婚約者とフロリダに行ってしまったのだ。だがドキュメンタリー番組のスタッフがドーンにクリスマス・パーティに戻ってくる費用を払い、予期せぬ再会のときが訪れる。“The Office”は痛烈なユーモアとまぎれもない共感とを融合させており、耐え難いほどの社会的な不快感を見事な風刺に変えている。すばらしい出来ばえを本作のいたるところでファンは確認できるだろう。（Bret Fetzer, Amazon.com）