非行臨床における精神医学的実践の経験
★★★★★
関東医療少年院で精神医学的治療に携わった経験に基づき,非行臨床の実践に役立つハンドブックに仕上がっている。第1部で反社会的行動,非社会的行動,自己破壊的行動に焦点を当て,第2部で精神病理学的観点から精神疾患と非行の関連が解説される。いずれも具体的事例が提示されており理解しやすい。第3部ではさらに医療と矯正教育の役割分担と連携について踏み込んだ実践的な議論が展開されている。「犯罪傾向がありかつ精神科的治療を必要とする症状がある事例」と「精神科的治療が犯罪傾向の低減と関連している事例」は似て非なるものなのである。司法・医療・教育・福祉などの関係諸機関がいかに連携していくか,犯罪者や障害者の単なる排除や囲い込みではない臨床的関与の可能性を探るための提言がなされている。とくに医療少年院・医療刑務所のありかたや保護観察制度の問題点について,臨床の現場からうかがい知ることができたという点で意義深い好著である。