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猫 (中公文庫)

価格: ¥580
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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猫を書く ★★★★☆
 夏目 漱石に内田 百間、梶井 基次郎、現代ならば町田 康や村上 春樹。
猫についての小説や文章を書いた作家は数多く、そしてそれらの作品は、
いずれもが例外なく優れた叙情性を持っている。まるで、猫について
表現することこそ、人間に言葉が与えられた理由ででもあるかのように。

 なぜ物書きは猫に惹かれるのだろうか。おそらくは猫という生き物が
あの丸くて柔らかい一つの体の中にあまりにも多くの要素を秘めているからであり、
それを気まぐれに見せてはまた隠し、また見せする様子が、作家たちの筆を
誘うからなのだろうと思う。可愛さ。美しさ。生物としての脆さと強さ。
ときに赤ん坊のように幼いかと思えば、仙人のごとく達観しているように
見えることもある。獣としての荒々しさや卑しさが、人間など足元にも
及ばないような高貴さとくるくる入れ替わる。猫の持つそうした
いくつもの側面を言葉でとらえようと、作家たちは猫と全霊で向き合い、
やがて筆を取る。結果として、猫を書いた作品に傑作が並ぶことになる。

 この『猫』にも、作家をはじめとする創作を生業にする人々が
それぞれのやり方で猫と付き合うことで生まれた珠玉の文章が連なっている。
微笑ましいもの、何か考えさせられるもの、いずれも適度に肩の力の抜けた、
洒脱な作品ばかりだ。確かに、猫と向き合うのに思想や信条はいらない。
猫の前では人は裸だ。それもまた、「猫もの」に傑作が多い理由かもしれない。
“猫”への親しみの情が湧いてきた好エッセイ集です。 ★★★★☆
 “猫”という個性的かつ魅力的な小動物に、次第に惹かれていく人たち。飼い猫や子猫の仕草や、彼らとの交流をひょいと書き留めてみた、そんなエッセイのいくつかに味のあるものがあり、なかなかに楽しめた一冊でした。

 1955年(昭和二十九年)に刊行された『猫』(中央公論社)を底本とし、クラフト・エヴィング商會の創作とデザインを加えて再編集した猫―クラフト・エヴィング商会プレゼンツを文庫化したもの。
 <ぶしよつたく坐つてゐるやうな感じであつた。>p.53、<机の下からそつと私の足にじやれるのを>p.137 といったふうに、原文のまま掲載されているのも雰囲気があって、好ましかったです。

 収録された文章、エッセイは、次のとおり。

 「はじめに」・・・・・・クラフト・エヴィング商會
 「お軽はらきり」・・・・・・有馬頼義(ありま よりちか。小説家)
 「みつちやん」・・・・・・猪熊弦一郎(いのくま げんいちろう。洋画家)
 「庭前」・・・・・・井伏鱒二(いぶせ ますじ。小説家)
 「「隅の隠居」の話」「猫騒動」・・・・・・大佛次郎(おさらぎ じろう。小説家、劇作家)
 「仔猫の太平洋横断」・・・・・・尾高京子(おだか きょうこ。翻訳家)
 「猫に仕えるの記」「猫族の紳士淑女」・・・・・・坂西志保(さかにし しほ。評論家)
 「小猫」・・・・・・瀧井孝作(たきい こうさく。小説家、俳人)
 「ねこ」「猫 マイペット」「客ぎらひ」・・・・・・谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう。小説家)
 「木かげ」「猫と母性愛」・・・・・・壺井榮(つぼい さかえ。小説家)
 「猫」「子猫」・・・・・・寺田寅彦(てらだ とらひこ。物理学者、随筆家)
 「どら猫観察記」「猫の島」・・・・・・柳田國男(やなぎた くにお。詩人、民俗学者)
 「忘れもの、探しもの」・・・・・・クラフト・エヴィング商會

 なかでも、有馬頼義、坂西志保の文章に、格別の妙味を感じましたね。行間に見え隠れし、自然、にじみ出してくる書き手の“猫”への愛情。それが、とてもよかった。
 “猫”を見つめる寺田寅彦の観察力と、含蓄をたたえた文章も印象に残ります。