島の重く、悲しく、ばかばかしく、楽しく、逞しい生を「自分たちの流儀で」
生き語る「とるにたらない人々」の美しさ。
人々が生き生きと激しく語るクレオール語の独特のリズムもまた美しく、
これらがふんだんに用いられた会話の遣りとりが本書の白眉だろう。
また、魔術的リアリズムの手法が採られているが、奴隷制、人種混交と差別、
植民地プランテーション、アジア人クーリーの導入、ドゴール政権…
正史を問い直すもうひとつの歴史が濃密に織りこまれているのも見逃せない。
400ページを優に越す分量もさることながら、この『コーヒーの水』は、
文学の持つ力・可能性を圧倒的な迫力で示した恐るべき傑作である。