待望の『驚異』がようやくDVDで発売された。フロイドのファンはすでにこれが祝うべき一大事件であることを知っている。オリジナルのVHSの発売は驚異的なベストセラーを記録したのに、DVDの発売には気が遠くなるほどの年月がかかった。フロイドのギタリスト、デビッド・ギルモアと、長年のフロイドのプロデューサー、ジェームズ・ガスリーが、5.1チャンネルのドルビー・サラウンド・サウンドで、伝説的コンサート・ビデオの修復、再編集、リミックスを行なう中、いくたびも発売は延期された。結果として誕生した2枚組のディスクは、待ったかいがあった傑作だ。オリジナルのビデオ映像データの限界は、ときにぼやける映像の質にあらわれているが(ギルモアはコンサートがフィルムで撮影されるべきだったと後に認めている)、フロイドのファンはみな「Pulse」がこれほどよく見えたことも聞けたこともなかったという点で一致するだろう。これがピンクフロイドの演奏の究極のドキュメントになるのを妨げているのは、グループの共同設立者、ロジャー・ウォーターズの不在だけだ(ウォーターズが不在でも、ピンクフロイドのもっとも印象的なステージ演奏のひとつであることには変わりない)。ベテランの音楽ビデオとコンサートのディレクター、デービッド・マレットが最低限の介入で優美なディレクションを行ない、1994年10月にロンドンのアールズコート・エキシビション・センターで行なわれた、2週間のピンクフロイドの公演を記録した145分間の映像(フロイドの「Division Bell」ツアーより)は、音楽の驚異だ。当時の最先端技術を用いたレーザー光線の巨大なアーチ、照明、映写システムのもとで、ギルモア、キーボードのリチャード・ライト、ドラマーのニック・メイソンは、1987年のピンクフロイドを再現し、サポーティング・バンドとともに、フロイドの共同設立者、シド・バレットへの美しいオマージュだである、「Shine on You Crazy Diamond」で演奏を始め、続いて「The Division Bell」から4曲、1987年の「A Momentary Lapse of Reason」から2曲、1979年の最高傑作「The Wall」、そして1971年の「Meddle」のオープニングトラックである「One of These Days」の名演奏でインターミッションに入る。
ディスク2の主眼は、1974年の「Dark Side of the Moon」全体のほとんど完ぺきに近い演奏だ。これだけで、たとえフロイドがちょっと好きという程度のファンでもこのDVDを買う理由になる。「The Great Gig in the Sky」は、クレア・トリーによるオリジナルの離れ業的なボーカルの素晴らしさは誰にも真似できないにしても、バックアップシンガーのサム・ブラウン、クローディア・ファウンテン、ダーガ・マクブルームはそれに次ぐ最良の演奏を聞かせてくれていると言ってよい。彼らはコンサート全体に絶え間ない貢献を果たしている。最後の曲「Eclipse」のビートの後、コンサートはアンコール演奏「Wish You Were Here」「Comfortably Numb」、また「The Wall」から「Run Like Hell」の花火のような爆発的名演が続き、コンサートの全編を通して見られるギルモアのギターの才能が、指使いの頻繁なクローズアップで堪能できる。ギルモアと同様、メーソンとライトは舞台上ではけっして派手な動きを見せない。これはここでも同様だが、技術的な正確さは、はっきりと現れていて、ギターのティム・レンウィックとサキソフォンのディック・パリーがそれぞれ脚光を浴びる機会を得ている一方、ベースのガイ・プラットは、とくに「Run Like Hell」でギルモアとボーカルで掛け合い、ウォーターズの代理として十分に貢献している。
美しいパッケージの8ページのブックレット、長年に渡ってフロイドとコラボレーションをしているストーム・トーガソンによるメニューのデザインも、このDVDセットの魅力で、ボーナスフィーチャーもたっぷり。とくに「Bootlegging the Bootleggers」では、「What Do You Want From Me?」「On the Turning Away」「Poles Apart」「Marooned」のきわめて良質のビデオ演奏を「おまけ」として収録している。コンサート全体を通して映し出されている超現実的な円形スクリーンの映画は、それだけで見ることもできる(やはり円形だが、一部はオリジナルと変換後の両方で見られる)。ディスク1には「Learning to Fly」と「Take It Back」の音楽ビデオを収録、「Tour Stuff」には1994年のツアーの地図、旅程表、舞台設計が収められている。「Say Goodbye to Life as We Know It」は楽しいバックステージの映像で(とりわけプロダクション・スタッフが美味いビールを求めてさまよう様子をとらえている)、ピンクフロイドの1996年の「Rock and Roll Hall of Fame」への参加の模様の感動的な紹介(ロジャー・ウォーターズとシド・バレットにギルモアが敬意を示す)に続き、スマッシング・パンプキンズのリーダー、ビリー・コーガンがギルモアとライトに加わって、「Wish You Were Here」をアコースティックで名演する (ウォーターズに向けられていたのかもしれない)。さらに、アルバムのカバーデザイン、写真のギャラリーを収録しているほか、コンサート部分に限り、通信速度448kbps、または高品質のDVDプレイヤー向けに、より質の高い640kbpsが選べる。システム・セットアップの機能で、ピンクフロイドの技術水準にふさわしい最高の音質をスピーカーが再現するように設定できる。すばらしいコンサート映像に加え、こうした特典のおかげで、『Pulse』は2006年、絶対に手に入れたい音楽DVDの最高傑作のひとつと言える。フロイドのファンたちを長年にわたって楽しませてくれることは確実だ。(Jeff Shannon, Amazon.com)