これらの最高のミュージシャンたちすべてに、ヨーヨー・マは見事に共鳴し、音楽全体に一層の彫りの深さを加えている。たとえば、パッソスの歌うジョビン「三月の雨」ではヨーヨーが軽妙なチェロの合いの手を入れるが、そのさりげなさ、軽さ、歌への共感性は、比類がない。それにしても、クラシック音楽から出発したヨーヨーがなぜ、これほどまでに異質な音楽に挑戦しようとするのか。その疑問に対するヨーヨーの直接的な答えが、付属のスペシャルDVD(※ 初回生産限定盤にのみ付属)のインタヴューにある。
「初めはブラジル音楽を理解できるか不安でした。けれども、彼らは寛大で親しみやすく素晴らしいミュージシャンで、私の力を存分に引き出し、高めてくれたのです。…演奏していて、こんなに幸せを感じたことはありません」。ヨーヨーにとって、世界中の異質な音楽語法を理解し、自分の世界を広げていくことは、音楽家としての成長でもあると同時に、きっと心踊るようなコミュニケーションなのだ。パキート・デリヴェラが、ライナーノートを素晴らしい言葉で締めくくっている。「モーツァルトを演奏するのにオーストリア人になる必要はなく、ピアソラを演奏するのにアルゼンチン人になる必要もない。ただ才能と熱意と敬意さえあれば十分なのだ」と。
2003年9月24日、ザンケル・ホール・アット・カーネギーでのライヴ。客席とのコミュニケーションもリラックスした素敵な雰囲気を伝えてくれる。ヨーヨー・マのファン、あるいはボサノヴァのファンならずとも、乾いた心をすっかり潤わせてくれるディスクとして強くおすすめしたい。(林田直樹)