あいかわらず達者な絵
★★★★☆
二千年ちょっとあとにNHKのラジオドラマを聞いた記憶があるが、幼い子供の声が切なかった(と思う…)。あいかわらず絵が達者。巻末に絵巻物をめざしたとあるが、唇の表現がすこし行き過ぎていて前作くらいの方が好きだ。巻頭にカラーがある。カラーの特殊な字体がちょっと読みにくかった。十分に堪能できるのだが、今見たら値段が高かったので星一個減。
美という言葉では表しきれない、平面への飽く無き追求
★★★★★
「仏出版界絶賛」と帯に入れたかった気持ちが解ります。素晴らしい。
「東洋」と括ってしまうのはあまりにも乱暴かと思いますが、
皇なつき氏がぴったりの原作に出会ったとしか言いようがない。
少女は勿論のこと、山姥の美しさ!凄絶な凄艶な線!
平面の清らかさは残しながら、こちらに迫って来るような眼差し、指先…
色のあでやかさと墨のいさぎよさ。そのどちらもが引き立てる白の清冽さ。
そして絵だけではなく語りにも、人間を描くのに必要なたっぷりとした肉付き。
皇氏は自分の絵を見るのが何より苦手、と以前書いていらっしゃいましたが、
それは描いた時点から遥かに進化していらっしゃるからでしょう。
天衣無縫という言葉がありますが、皇氏の絵からはどんどん縫い目が無くなっていく気がする。
こう描かなければならない、という世俗の垢をかなぐり捨てて、己の表現を、線を追求している。
眼福です!早く続巻を見たい!
絵に魅了されました!
★★★★★
毎日新聞に連載されていた小池一夫さんの原作小説をずっと読んでいました。独特のリズム感のある文章で、気持ちよく声に出して読みたくなるような作品だったと記憶しています。でも!実は今回、皇さんの漫画作品を読んで「ああ、こういうことだったのか!」と納得する展開があり、素直に作品の世界観に浸ることが出来ました。思い返すに、原作はかなり場面や時代の転換が多かったので、連載で読んだときには、とまどうこともあったのかもしれません。
巻頭にはカラーイラストがたっぷり収録されていて、文章が添えられていますが、これはたぶん原作小説の文章だと思います。ここはまるで絵巻物語のようで、私は付録の冊子のように受け取ったので得した気持ちになりました。やはりこの作家さんのカラーは美しいです。
第二集もこのレベルをキープしてくれることを信じて、楽しみに待ちたいと思います。
皇なつきの絵は見ごたえがあったのだけれど・・・
★★★☆☆
平安時代の都を舞台に、四歳の少女・茨木(いばらき)が母に死なれ、鬼と出会うところからはじまる物語。
絵師・皇(すめらぎ)なつきが「あとがき」で語っているように、コマ割りや台詞(ネーム)の入れ方など、通常の漫画というよりも、絵物語もしくは絵巻物に近い感触を持ちました。
雰囲気のある描きっぷりで、「流石!」と唸らせてくれた皇なつきの絵。鬼、山姥(やまんば)、二歳の童子・金太郎の描写など、見事ですなあ。惚れ惚れさせられましたよ。
原作は、小池一夫。1993年、毎日新聞日曜版に一年間にわたって連載された小説。おそらく、話を適宜端折ったりしているせいだろうと思いますが、物語がやや分かりづらかったですね。話のエピソードが、断片的につながっている気がしました。また、物語の起伏や焦点がぼやけてしまっている印象も受けました。
殊に混乱させられたのは、20頁ほどのカラー口絵の箇所。作中の絵に色を付けたものと、作中のある台詞とを抜き出して構成しているのですが、本編に入る前にこの頁を読んで、非常に戸惑いました。見開きにして見た時に、絵と台詞がきちんと一致している訳ではないんですね。イメージ風に、インパクトのある台詞と絵を持ってきて、組み合わせている。ここのカラー口絵の箇所は、巻末にでも、台詞抜きで掲載して欲しかったです。
★ふたつ減らしたのは、上述したような話の分かりにくさという理由からです。絵が見事なだけに、もったいないなあと残念に思いました。