市川猿之助丈についての思い出
★★★★☆
私が市川猿之助丈を初めて知ったのは、歌舞伎の世界ではありませんでした。
1992年の11月に東京のNHKホールで催されたバイエルン国立歌劇場の来日公演です。
演目はR.シュトラウス作曲のオペラ「影のない女」で、指揮はW.サヴァリッシュ氏でした。4時間近くもの大音量で鳴り響く壮大な演目の後、カーテンコールで歌手の紹介の後にサヴァリッシュ氏の手で引っ張り出されたのが市川猿之助丈で、その当時オペラには興味があったものの歌舞伎に興味の無い私は和服姿で観客の拍手に応じる歌舞伎役者を見ても特段の関心は湧きませんでした。
市川猿之助丈はこの演目の舞台演出を手がけられていて、その奇抜な演出を観て聴いて腰が抜けてこれは凄い人だなと思ったのですが、その当時は音楽や歌唱に全ての関心を注がれこそすれ、演出の基となっているという歌舞伎そのものには全く無関心でした。オペラの演出監督としては全く素晴らしいと思えども、つまり、舞台演劇としての関心が薄く、恥ずかしながら、音楽監督であるサヴァリッシュ氏から全幅の信頼を得て演出を手がけられた市川猿之助という方には全く興味がありませんでした。
あれから15年以上の歳月が流れ最近になって歌舞伎に興味を持つ様になり、当DVDの「義経千本桜・川連法眼館の場」を手に入れて観たのですが、オペラの演出をされていた時期の収録であることと相まって、私的にはとても感慨深いものがあります。
今では市川猿之助丈の歌舞伎演目と併せて、出来ればあの当時のオペラ鑑賞をもう一度経験してみたいと思ってしまうぐらいです。
「義経千本桜・川連法眼館の場」という演目は歌舞伎演目で三大狂言と言われる有名な狂言であることは重々承知していますが、私はあまり好きではありません。市川猿之助丈の技量は凄いと思うのですが、狂言の内容そのものが市川猿之助丈の演技以前に浅はかなものに感じてしまうからです。
他の役者での同じ狂言を見知っていて言っている訳ではありませんし、不遜な考えである事は重々承知してのことではあります。市川猿之助丈演じる子狐の親狐を思う演技で涙を誘う事も無いではありません。
恐らくは私の歌舞伎鑑賞の未熟さや、伝統芸能に対する考証の浅はかさによるものかと思われます。本当にごめんなさい。
でも、市川猿之助丈の演目では同じくDVDで発売されている「黒塚」の方が私的にはお勧めだと思います。