彫りの深い歌のマスネ、華麗に舞うサン=サーンス、そして火のような情熱を秘めたフォーレ、どれもヨーヨーならではのけた外れの名演だが、メインのフランクのソナタは特にすごい。フランス音楽史上屈指の名作であるこの作品には、通常のヴァイオリン版をはじめ、フルート版やチェロ版にも数多い名盤がある。「抒情」「官能」といった言葉で語られがちなこの作品に、ヨーヨーはとてつもなく巨大な起伏と深い呼吸をもって、かつて誰も踏み込んだこともないような音楽の深部にまで到達している。キャサリン・ストットのピアノも、ヨーヨーの音楽と一体化しており、音色も変化に富んで美しい。第1楽章は、あわてず騒がず、悠揚(ゆうよう)とした構えからゆったりと、そして雄大に歌う。第2楽章では、きしみを立てて荒れ狂うチェロの音色に打ちのめされる。これほど激しい内面の嵐を聴く者の心にかきたてる演奏がありうるとは…。痛みを伴う魂の祈りの第3楽章を経て、第4楽章は熱い人間愛が聴く者の胸を高鳴らせる。
いま生まれたばかりの音楽のように、柔軟なフレージング、ひらめきに満ちた表情の変化のすべてが、融通無碍(ゆうずうむげ)な境地に達した現在のヨーヨーの途方もない充実ぶりを示している。いまさらながら繰り返すほかない。やはりヨーヨーは断然別格、正真正銘ホンモノの音楽家だ。(林田直樹)