さてこれらが、マイケル・クライトンのスリラー『Timeline』(邦題『タイムライン』)のヒーローたちが直面する苦境である。ヒーローは歴史の研究者で、ビル・ゲイツのあの好ましいとはいえない奇癖のうちのいくつかを持ったハイテクの天才億万長者により、1999年に雇われた者たちである。『Jurassic Park』(邦題『ジュラシック・パーク』)に出てくる起業家のようなドニガーは、最先端科学によって復元されたロスト・ワールドの品々を目玉商品に、テーマパークを計画する。企画主任の教授が、1357年の世界から1999年へ救難信号を送っても、ボスのドニガーは、救出に出かければ大変な危険が待ち受けていることを若き歴史家たちにあえて伝えない。はじめのうちは時代遊泳が緻密に語られていくが、『Timeline』はすぐに、ちょっとした科学とタイム・パラドックスが混じりあう、スリル満点の古典活劇となる。なかでも中世の時代考証は一級品で、クライトンは、読者の興奮が冷めないように展開のスピードを決して緩めず、過去を驚くべき手法でよみがえらせる。あるとき、タイム・トラベラーが埋葬したての墓地に思い切って入り込む。運悪くそこの番人は、恐ろしい歯をした凶暴な大男、最悪の卑劣漢であった。大男はすぐに彼女の頭を断頭台にのせる。「奴が斧を振り上げたとき、草むらを這うその影が見えた」。ああ、もう恐ろしさで次のページをめくれない!
読み進めるにつれ、すぐに制作が企画されるであろう映画『タイムライン』の輝かしい骨格や、2000年の市場をにぎわすであろう、この小説をもとにした、コンピュータゲームが見えてくる。そこには城の中の秘密の通路で展開される斬り合いの場面、追跡の場面が何度も出てくるはずだ。しかし『Timeline』はそれ自体で、血光りした鎧を着る騎士のように、ひとり、不気味に超然とした輝きを放っている。