生命の遺伝子コードが解き明かされた今、この科学上の大発見が音楽界にもたらす影響の一端をフランク・マッコムが垣間見せてくれる。ダニー・ハサウェイのフェンダーローズ・ピアノとスティーヴィー・ワンダーのミニムーグ・シンセサイザーの音楽的DNAを受け継ぐマッコムのデビューは、これら二人の音楽的遺伝子のロマンチックな突然変異との印象を与えるものだ。ソングライターとしてはまだ二人の足元にも及ばないマッコムだが、その声質は気味が悪いほど二人の巨匠に似ているため、そのデビュー曲はうたい文句の「ネオ・ソウル」ミュージックに相応しいとは言いがたい。これは本物の70年代音楽にハサウェイの『Extension of a Man』時代やワンダーの『Music of My Mind』の風味を加えたものだ。マッコムは明らかに自分に影響を与えた巨匠の音楽を味わっており、バックショット・ルフォンク時代のボス、ブランフォ-ド・マルサリスのプロデュース手腕の恩恵にもあずかっている。収録した14曲のすべてに、一つの核となるオールスター・ジャズグループを使った点も良かった。たとえば、マルサリスのサックス、カメルーン出身のリチャード・ボナのベース、ラッセル・ガンのトランペットといった具合だ。シンセサイザーの曲目の方がピアノのよりもより魂がこもっている。言い変えれば、12曲のオリジナル曲の中の最高のものの中にLove Natural, Wasting Your Timeがあるように、ダニーよりスティーヴィーに近いようだ。とは言え、完全に過去に囚われていると言うわけではない。(They're Gonna Be) Looking at You, Listen to Your Heartには、トリップ・ホップのドラムとベースの感覚がある。 --Mark Ruffin