『デビルマン』の描く人類は希望に満ちた明るい存在などではなく,極めてダークである.人類そのものの中に「悪魔」が存在し,「悪魔」呼ばわりされた「デビルマン(悪魔人間)」達が実は最も「ヒューマン(人間的)」であるという,一種倒錯した世界観に貫かれている.しかしがなら,旧ロシアや中国の文化大革命,あるいは北朝鮮などでの人類の行為を鑑みれば,「悪魔」性はまごうかたなき人類の一つの側面であり,ここに焦点を当てた本作品が,極めて今日的なテーマを持っていることは明らかだ.このような深いテーマを持った作品が(しかも結構残酷でもある),少年漫画誌に連載されていたこと自体,今から考えると奇跡のように思える.
当時は冷戦の崩壊前で,ロシアや中国や北朝鮮の真実はほとんど報道されていなかったわけであるが,本作品はそれを見通すかのように,あたかも預言のように機能している(フランス革命からのヒントもあるように思うが).人間の本質という根源的問題に切り込んだ永井豪は,この作品で頂点を極めたといえる.その筆はまさに神がかり的であり,了の変節も(詳しくは書けないので是非読んでいただきたい),あたかも連載当初から予定されていたかのように,きわめてスムーズにかつドラマチックな展開を見せる.これが連載の途中からの思いつき(著者談)とは,全く恐れ入る.
『デビルマン』には多くの版があるが,余分な加筆がなく連載当時に忠実なKC版が,最も違和感なく一気に読める.もちろん,アニメ版の『デビルマン』しか知らない読者は,これを読めば驚愕を禁じえないであろう.それほどの破壊力を持った作品である.
この巻では主人公が昔の友達と再会し、地球を侵略しようとするデーモンを阻止するためにデビルマンに変身するところまで入っている。おそらく作者はこの巻では今後の展開など何も考えていない。間違いない。
本作は文庫版や愛蔵版なども出版されているが、唯一の正しいデビルマンといっていいのはこの完全復刻版のみだ。ほかのは3巻当たりに新デビルマンが入っていたり、余計な書き足しなどがある。一気に全巻集めて一気に読んでしまうことを激しく薦める。