知らないもの同士がカフェにつどい、2時間ほど語りあう。「みんなに開かれた哲学的なディスカッションの集まり」だから、進行役はいるがルールはない。テーマも参加者の提案で決まり、「精神の異常とは何か」「やりがいのある仕事と何か」「沈黙とは何か」など多岐にわたる。議論が白熱すると、精神病者が独白をはじめたり、教授と学生がけんか腰でやりあったりもする。子どもの何気ないひと言が議論を決着し、拍手がわきあがったりするのもおもしろい。
本書によれば、2500年も前にソクラテスがアテネの街をぶらつき、人をつかまえては「無知とはなんぞや」と議論をふっかけていたのが哲学のはじまりであり、ぶ厚い本を読み、専門用語を駆使するような哲学は後世の邪道である。カフェで人生について語りあうだけで、「哲学を元あった場所に返す」というムーブメントに参画できるのだから、こんな痛快な話もない。(金子 遊)