歴史は、ひとことで語れない
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この巻では、安政の大獄へ至るまでの経緯がかなり詳細に描かれている。また、日米修好通商条約調印から4カ月後の横浜を訪れた福沢諭吉(セリフは関西弁)がこれまで学んできたオランダ語がほとんど役に立たないことに気付き、英語を一緒に勉強しましょうよと村田蔵六を訪問する場面もコミカルに描かれている。
安政の大獄の始まりとプチャーチンの退場
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ペリー来航の嘉永六年(1853年)の「癸丑」に
始まり、1868年の「戊辰」戦争で終わる《幕末》。
本巻では、戊辰戦争と同様に十干十二支で表される
歴史上の重大事件「戊午の密勅」が描かれています。
水戸藩に孝明天皇がひそかに下したこの勅を、大老・井伊直弼は、
隠居謹慎の処分を逆恨みした水戸斉昭の謀と誤解してしまいます。
この一件が引き金になり、世に言う「安政の大獄」が始まることになるのです。
いよいよ世相がきな臭くなるなか、これまで長い間『風雲児たち』で活躍してきた
ロシアのプチャーチンが、日露修好通商条約の調印を終え、ひっそりと退場して
いきます。
そして、彼を見送る川路聖謨も、幕府の要職を解かれ、政治の表舞台から去ることに。
一つの時代が終わりを告げていると思うと感慨深いのですが、領土問題で渡り合った
この両者の子孫が、現在でも交友関係にあると書かれていたのには、驚かされました。
2008年に、日露修好百五十年を祝って再会したとのこと。
我々が生きる現在は歴史と繋がっているんだと
いう当たり前のことを改めて実感させられます。
ビンテージワインのような作品
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実はこの本、ずっと前に買ってまだ読んでいないんです。
彼の本を読み終わるといつも、
「あー、これでもう次の巻が出るまで彼の作品は読めないのか。」
と虚しくなってくるので、読むのがあまりにもったいなくて。
ビンテージワインを開けられない心境でしょうか。
本のレビューになっていなくてすみません。
私は、みなもと太郎の作品を愛している。
ただそれだけが言いたい。
いつか、彼の作品が週刊誌に連載されることを心から願っています。
この先、井伊直弼をどう描くのか
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二度仕切り直したこの大河作品も16巻になった。安政の大獄。歴史教科書のあっさりした記述からは想像もできないドラマを、恐らくは膨大な資料に基づき、精細に描き出した作者の手腕は相変わらず冴えている。重い物語を容易く読めるのは、確かな構成力のみならず、もちろん品位ある(しかしすべっていない)ギャグのおかげである。本巻にも、変わらぬ最大限の賛辞を送りたい。
本巻では井伊直弼が悪役になる。この作品におけるこれまでの井伊は、どちらかというと歴史の流れに翻弄される保守派の領袖、といった役柄であったが、これから描かれる事件の性質上、このあたりで悪役に定位せざるを得なかったのだろう。しかし彼を一方的に悪人と考えるのは、恩讐を超えた立場にある読者として公正ではない。この作品の言う「風雲児」とは、彼によって命を絶たれた志士たちの側にあるのだから、井伊を悪と断ずれば事は易しい。しかし私たちは歴史を知っているからこそ、彼の政策の誤りを理解できるのである。彼は私腹を肥やしたのではなく、彼なりの方法で(たとえ誤りであったとしても)精一杯日本を守ろうとしたのであるし、実際、領国では名君であったと聞く。もし続く巻で、私たちが桜田門外の変に「ザマみろ」という感覚を持ったとしたら、それはこの作品の立場が一方に偏したことを意味する。読者に偏った印象を持たせないのが本作品の長所であるのだから、そうならないことを願う。
「戊午の密勅」で時代が動く
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関ヶ原の戦いまで遡って明治維新を描いてきた歴史大河ギャグ漫画・その幕末編の16巻目。
この巻では、前巻の島津斉彬の急死を受けて、水戸藩に「戊午の密勅」が差し下され、それを受けて幕府が大弾圧を展開し、時代がいよいよ本格的に動乱の幕末期に突入します。
よく「歴史のIF」と言いますが、こうして歴史の細かい流れをわかりやすく見せてくれると、むしろ実際の歴史、この後に展開されることになる血みどろの歴史の方がIFだったんじゃという錯覚を覚えます。
斉彬が生きていれば、有力大名の合議制が実現し、列藩会議からゆるやかに議会民主制に移行していったのでしょう。
しかし、急激に時代が変わることが求められたからこそ、そのように歴史が動いたとも思えて不思議な感じにとらわれます。
大河ドラマの主役・竜馬と篤姫もきちんと出番が用意されてます。
本作の何がここまで支持されているのか、考えてみました。
1つは歴史を史実に忠実になぞりながらも、ギャグマンガにすることで、複雑な歴史を楽しく学べるようにしているところでしょう。「戊午の密勅」というのは要するに朝廷からの手紙ですが、それがなぜそんなに重要な意味を持つのか、その前提として、そこまで朝廷が存在感を高めたのはなぜなのか。水がしみこむようにきちんと理解させてくれます。
もう1つは幕末のキャラクターをキチンと消化して、立たせているところでしょう。竜馬と武市半平太の関係や、村田蔵六と福沢諭吉の関係など実にうまいなあと思わせるものがあります。おすすめです。