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鉄腕アトム(13) (手塚治虫漫画全集 (233))

価格: ¥561
カテゴリ: コミック
ブランド: 講談社
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地上最大のロボット ★★★★★
言うまでもなく、鉄腕アトム中最高のエピソードと言えば、やはりこの”地上最大のロボット”ということになると思います。 この作品は過去三回のTVシリーズでもアニメ化されましたが、いずれも話をかなり短縮・改変されたものであり、浦沢直樹氏の”PLUTO”は、出だし快調だったものの、話を引っ張りすぎて、途中やや緊張感が薄れたと個人的には思っています。 結局、長くも短くもない、この手塚治虫オリジナル版こそがやはり最高だと思います。 

人はなぜ強さを求めるのか。 なぜ戦うのか。 肉体的に強い、ということが偉大なことなのか。 この作品において、お説教ではなく、最高のエンターテイメントの形でこういうことを子供に伝える、というきわめて難しいことを手塚先生は達成されたと思います。 これと前後して描かれた”地球最後の日”と”ロボイド”あたりは、先生が到達した子供漫画のひとつの理想的成果だと思います。  ちょうどアトムのTVアニメが好評で,自分も一番仕事が楽しかった時期だ、と手塚先生も回想しておられます。 この後、昭和40年代に入ると、劇画やリアルなスポ魂漫画、という、先生には描けない作品が続々と台頭してきて、長いスランプの時期に突入します。 そして”ブラック・ジャック”と”三つ目がとおる”で、奇跡の復活を果たすことになるのです。 なにはともあれ、この作品一度きりの登場であったプルートー(手塚先生の守護星、冥王星、という意味)は、やはり全手塚作品中屈指の名キャラクターでした。(あと、ボラーもスゴイっす。)
ロボットに「心」が生まれる瞬間 ★★★★★
 鉄腕アトムの多くのエピソードの中でも『地上最大のロボット』は、当然のように「心」を持つと信じられてきたアトムでなく、善悪を知らない高性能ロボットがいかにそれを身につけ「人」として成長し、「人」として死にうるかを描いている。 
 つまり、アシモフが提唱した有名なロボット三原則のように単純な規則からも「心」は生まれうると。 

 まず、高性能ロボットがロボット三原則を運用する時に、併せて人間社会の善悪判断を学習していくというシステム設計は効率側面から至極当然であること。 そして、人間社会の善悪判断を学習をするためには周囲からの毀誉褒貶に敏感に反応する判断装置が必要であること。 この作品ではプルートーもアトムも繰り返し毀誉褒貶に晒され、それぞれに大きなショックを受けている。 ウランからワッペンをもらうプルートー、100万馬力を得て人間から「化けもの」と陰口を囁かれるアトム、ひとつひとつの場面が読む人間の「心」を鋭く突き刺し、その瞬間自分の内部で起こったと同じ現象がロボットの回路にも発生していることが痛いほど解る。 

 この主題は古くは石森章太郎『人造人間キカイダー』によって再び奏でられ、少女マンガの清水玲子『メタルと花嫁』、近年では神山健司『攻殻機動隊stand alone complex』等でも変奏されたが、ここまでシンプルに、単純規則から心の獲得までを追った物語はなかろう。 複雑系の研究が始まってすらいない時代に、ご都合主義でなく、丹念にこれを描きえたことは、思想として驚異的だ。