何よりも興味を引くのは、やはり歌詞に関する考察。当時のディランの個人的な事情(恋人との関係、音楽的創造力の高まり、ドラッグ使用状況などなど)と、それを取り巻く60年代アメリカの社会的状況の両方を視野に入れ、また関係者の証言も豊富に取り入れた内容は、ディープなマニアに対しても十分な説得力を持っている。
また、初期のギターとハーモニカによるシンプルな演奏スタイルから一転、60年代半ばからエレクトリック・ギターなどのロックのフォーマットを導入して、頑迷なフォークの聴衆から猛烈なバッシングを浴び…という有名な逸話の背景を丁寧に語ってくれているのもうれしい。改めて当時のディランの革新性に感動を覚える読者も多いはず。
ディラン関連としては、ビデオ『ドント・ルック・バック』や、98年に出たCD『LIVE 1966(ロイヤル・アルバート・ホール)』と同様に、60年代ポップカルチャーを理解する上での貴重なドキュメントとなるであろう力作だ。ディランについての知識を深めたい若いファンはもちろん、60年代アメリカの社会・文化に興味のある人は必読の書といえる。(今井直也)