白土三平の代名詞
★★★★☆
白土三平の代名詞的作品であり、漫画史に残る傑作です。しかしこの決定版は装丁も地味だし、けっこう値が張りますね。もうちょっと若い人、新しい読者にもアピールするような配慮があっても良かったかな。「カムイ伝」という名前ですが、実はカムイはほぼ狂言回しです。別名「カムイ出ん」ですから(笑)。カムイが大活躍する痛快忍者もの、落涙の人情話が読みたい人には「カムイ外伝」をおすすめします。本作は、最初の巻でかなりのページを割いて動物たちの生態・生存競争を描くという、現在では考えられないほどの壮大な構想の元に描かれた超大作です。娯楽性は若干低めですが、それでものめり込めるだけのものはあるし、凄く勉強にもなります。カムイが出てくると面白いし、嬉しくなる。作品内容は満点だけど、決定版の仕様にマイナス1点です。
圧巻!!
★★★★★
初めて読まれる方もいらっしゃるでしょうから最初に断っておきますが
カムイ伝は忍者漫画ではありません。自由・平等をテーマにした大河物語だと思います。
そしてここまで人間を最後の最後まで描ききった作品は漫画という表現においては火の鳥ぐらいだと思います。
江戸時代、被支配階級である農民が唯一、不満を領主に対して表現する手段は一揆であり
領主の搾取から開放される為に繰り返す闘争劇が物語の本流である。
一揆を起こしたリーダーを刑死させる代わりに農民の要求を呑む、これが当時の慣習である。
与えられたわずかばかりの希望を糧に、したたかに生きる農民も描かれている。
特に圧巻なのはラストである。
本来ならば刑死されるはずのリーダーを領主はわざと放免するのである。
刑死されればリーダーは農民たちにとっては英雄である。
しかしわざと放免にしたことでリーダーを領主側の内通者(裏切り者)だったと農民に錯誤させるのである。
見事に騙された農民はこれまで信じきっていたリーダーを
”こいつが裏切り者だったのか”と一斉に殺意を持って襲い掛かるのである。
これぞ支配する人間の伝家の宝刀であり真骨頂である。
(しかも、リーダーが弁解できないように舌を切り取るという徹底振り。)
何という悪辣さであろうか!!
人間の本質をここまで描ききった作品は稀有である。
現在ならばどこかで何らかの歯止めが掛かってもおかしくないが
連載当時の社会的雰囲気も絡んで、途方ない物語になっている。
学生時代に読んで大きな影響を受けました。
読まれていない方は是非読んでみてください。得るものは必ずあります。
一回読んで分からなければ何回も読んでみてください。
出来れば全巻一括で揃えてから読まれることをお勧めします。
絵も良いです。
★★★★☆
詳しい内容は他のかたが書かれているので省くとして、
とにかく夢中で読んじゃいました。
あとはその時代背景のちょっとした解説や注釈が所々に
出てくるのも参考になりました。
「カムイ!」
★★★★★
「カムイ伝」は白土三平の言わずと知れた代表作だ。だが、白土の作品では多くのファンが主張するように『忍者武芸帳』の方が一作品としてまとまりが良く、テーマが明瞭で読みやすい。
それでも、彼の最高のものとしては『カムイ伝』が挙げる方が多いだろう。全三部構成で未完であるにもかかわらず、魅力は決して損じられない。全共闘の学生に強く支持されたこの作品は時代のパワーを一身に受けており、現在なお読む者を戦慄させる。
物語は長く、人物も多すぎる。 読みやすい漫画とは決して言えない。けれど、その欠点を補ってあまりある力がこの作品にはある。
作中には忍者や侍がしばしば登場し、戦闘する場面も描かれるが、結局のところこの作品の本質は百人を超す登場人物たちの生命の躍動である。
人物たちの誰もが主人公となり得、そして読者は自分の中にその誰かを見つけるだろう。
■差別されるものと、するものの尊厳と無常の同等さを描く傑作。
★★★★★
■今回の全集化に対しては、紙の地の白さと、版が大きくなった分、作品の重厚さが、より伝わってくるという点で、大変にうれしい。作品自体は、語るまでも無く、言葉に言い尽くせないほど凄まじく、一人一人の人間自体に付与された「存在の尊厳と無常」を、描いている傑作である。
■大学最後の年、社会に出たい一心の就職活動の最中に、「第1部13-15巻だけでいいから「カムイ伝」を読みなさい」と、知人に薦められたのが、作品との出会いでした。心残りなのは、誰が薦めてくれたのかを忘れてしまったことです。でも、皆さんにも、「第1部13-15巻」だけでも手にしていただけたらと思います。
■人間社会や自然の意味と無常を、描ききった作品。それも、江戸封建社会を題材に、作品発表当時の反権力的社会エネルギー、その後の残照の歴史観で描ききった作品スケール。これはもう「歴史的必然と白土三平の創造力との出会いによって生まれた、まさに歴史に残る、奇跡的作品」です。
■あの昭和の時代に生きた作者にしか描けなかった江戸封建モノの傑作であり、昭和の時代性、現代社会への見識も含め、今後、作者自身の言葉や、作者評論が続くようなので、大変に楽しみです。カムイは、まさに現代の物語だということが、すでに語られ始めています。
■社会に出て、他人に管理される、また、就職採用の合否の時点より、他人に評価されるのが社会的人間の原則であることを自覚した今でも、他人との関わりにおいて、評価[差別]されるもの-するもの両者の「存在と行為の尊厳と無常」の同質性、循環性を心におきとめ、自分が傷つけられた時でさえも、常に人へのやさしさを失わない「自然な人」であり続ける事の大切さを気づかせてくれる傑作です。