キエレメ・ムーチョ
価格: ¥3,000
歌手のシーラ・ジョーダンと組んでいた時代のスティーヴ・キューン、あるいはECM作品に聴かれる彼には、どこか孤高の人といった感があった。しかしのちに大衆派に転じ、スタンダード曲も積極的に取りあげるようになって、ずいぶんと親しみやすいピアニストに変身した。
それを印象づけたのが、本作を含む一連のヴィーナス作品。これは2000年録音のラテン曲集である。キューンとラテン、ちょっと意外な取りあわせで、ひとつ間違えるとこの企画、キワ物になるおそれもある。しかし結果的に、これまであまり表面化していなかったキューンの陽性部分を見事に引きだしていて、なるほどと納得してしまうできばえだ。
ラテン・ジャズというと、ジャズ・ミュージシャンがラテン・リズムを用いて演奏するケースが大半だ。しかしここでのキューンは<1><2>といったおなじみのラテン曲をフォー・ビートで演奏しており、ここが成功の秘訣だったようだ。鋭い刃物のようなかつての彼と違って、暖かくヒューマンなキューンがここにいる。(市川正二)