「アメリカ・イズ・ノット・ザ・ワールド」はいかにも毒舌家のモリッシーらしい、派手に物議を呼びそうなオープニング・チューン。一聴すれば、批判的な歌詞に凶悪なアッパー・パンチを食らわせられる。それにしても、現在はLAに住む彼が、「大統領が黒人や女性やゲイであることは絶対にない」国を非難するとは不思議な話だ。さらに奇妙なのは、いつもは純粋主義的なロックを志向している彼が、ブレイクビーツ的な手法(ジョージ・クリントンよりはジョージ・マイケルに近い)とか、ファンキー・ギターらしきもの(驚きだ)を取り入れている点。他のトラックでも、ベースとドラムスが非常に目立つ形で例の突っ張ったモッズ・スタイルに押し込まれている。
一方、「I Have Forgiven Jesus」は内省的でノスタルジックな好ナンバー。「The World is Full of Crashing Bores」はこれまたハイライトのひとつで、テレビ番組『Pop Idol』に代表されるカルチャーを呪うコメントが辛らつ。だが、本作のベスト・トラックである「You Know I Couldn't Last」こそはみんなが本当に求めていたものだろう。メランコリーと幸福感がせめぎ合うこの曲は、なぜ気まぐれなモリッシーがかくも崇拝されるのかをよく示している。ウェルカムバック不満屋さん。すべて許してあげるよ。(Paul Tierney, Amazon.co.uk)