いつもどおり問題なのは、ティムがプロデューサーだけでなく、ラッパーという不人気な役割も兼ねているトラックだ。ティムのラップは多くのトラックで聴けるが、「Don't Make Me Take It There」は自己陶酔による仰々しいトラックでしかない。この世のものとは思えないジャンルを超越したビートはあいかわらず健在だが、フランク・リー・ホワイトのような一流のラッパーに遠くおよばないティムの平凡なラップ、さらにはマグーのラップでさえ、目もくらむばかりにすばらしいトラックの魅力を傷つけている。
本作のサウンドの多くを物語っているのは、ティムが過ぎし日のラップに大きく目を向けているという事実かもしれない。「Cop That Shit」ではスペシャルEdや、ラキム、MCライトのライムに手を加え、「Straight Outta Virginia」ではN.W.A.を真似ている。これは時代を逆行したトラックが、彼のジャージ姿に似合っているからだろうか? それともラップの全盛期は過去のことだと思っているのだろうか? いずれにせよ、どこをどうしたら1枚のアルバムのなかに刺激的な音と退屈な音を同居させることができるのかは誰にもわからない。だが本作はそんなアルバムなのだ。(Dalton Higgins, Amazon.com)