ガーシュウィンと同様に、バカラックは自作にジャズその他の手法を多用し、簡潔なリズムと軽やかなメロディーに独特の表情を与えるが、全体の印象はあくまでエレガントそのもの。さらに重要な点は、バカラックがプロデューサーやアレンジャーとしての才能をもっていたことで、音楽に対するヴィジョンに曇りがなかった。このことは、本作で自作の数々の大ヒット曲のアレンジ(大部分は60年代~70年代にA&Mおよびキャップ・レーベルからリリースされたソロ・アルバムからのトラックで、インスト・ヴァージョンが多い)を聴いてみれば明らかになるだろう。また、バカラックの明朗なヴォーカルは魅力的で、「Something Big」、「A House is Not a Home」、「Close to You」、そして特に「Make It Easy On Yourself」(キャバレー風のドラマティックなナンバー)は聴きものだ。このコレクションの主役といえそうなスタジオ・アンサンブルとの調和が見事である。陽気で、ブラジル風のクールなジャズ・センスがふんだんに盛りこまれたこれらのトラックは、もともとはロック全盛の時代にイージー・リスニングをやってやろうというオルタナティヴ精神の産物だったのかもしれない。だが皮肉なことに、結局は両者の間で心暖かい橋渡し役を務めたのだった。(Jerry McCulley, Amazon.com)