アルバム3作目の『I Am』でナズは、ヒップホップ界有数の言葉のマジシャンとしての地位を築いた。この25歳のラッパーの強烈な声を前に、パフ・ダディ、アリーヤ、スカーフェイス、DMXといった大物ゲストたちも形なしとなった。ナズは映画(『Belly』)にも出ているが、その本当の夢は映画のシナリオを書くことだった。その夢が実現するまでは、きわめて映画的なストリートの語りで知られることだろう。ナズは塀の中の詩人のようだ。血みどろの犯罪ものを語るが、暴力の悪循環を断とうという強いメッセージも同時にこめてバランスを保っている。彼の語るSmall WorldやFavor for a Favorなどのスラム街の話はニヒルな犯罪を称えるのではなく、人々が犯罪に走るのは絶望に駆られてだということを強調している。Dr. Knockboot,でヒップホップの失恋者やプラーヤ気取り相手のコラムニストに扮した以外は、『I Am』ではあくまでも真面目な姿勢を保っている。その高潔な姿勢は、トラックマスターズとディージェイ・プレミアの見事なプロデュースの助けがなかったらほとんどひとりよがりに見えてしまうだろう。このプロデュースのおかげで、当たりはずれのぶれの大きなものでなく、最後まで一貫したレコーディングとなったのだ。 --Martin Johnson